第14話 街に半歩入ったよ!
「それじゃあ記入表を埋めてもらうわけだが、字は書けるか?」
む? こっちで書く必要があるのか、しかしここに来るまでこの世界の文字が書けるのか試していないのだが、いけるだろうか?
まぁ書けなかったら書けなかったで見栄張ってすみませんでいいか、ちゃんと読めるものが書けているか確かめるチャンスだし。
「えぇ、大丈夫だと思います」
やっぱ無理、ごめんちゃい。の保険はかけておくが、手渡された記入表を見る限り読むのはやはりできるようだ。
あとは書ければいいのだが、まずは名前っ……とぉおおっ?! なんだこれ気持ち悪っ!?
なにこれ日本語で書こうとすると勝手に手が動いてたぶんこっちの言葉で書き記していってるっ!? でも俺の目には日本語で書いてるように見えるっ!
視覚と感覚の違いが気持ち悪いわぁ……見ないように書くなんて俺には出来ないし、枠からはみ出すのもあれだから我慢するけど……これ、そのうち慣れれるかなぁ?
サクサク記入していくが困った項目が2つ、職業と出身地である。
職業は無職でいいのか……? まさかステータス上のものを記入すべきなのか?
それと出身地も異世界から来ました。ってワケにもいかんだろうしなぁ……まぁ、街に入るためだ。聞いてみるしかないな。
「あの、職業と出身地なのですが……」
「ん? あぁ、職業は就労に就いていないなら無記入でも問題ないが、正式な身分証を作るためにも街に入ったら早めに仕事を探した方がいいぞ、なにせ仮の身分証は定期的に金を徴収されるからな」
おっ、そうなのか。というか街に滞在していると金を取られるのか。楽に職にありつける仕事があればいいが……
「それと出身地だが……もし今は存在しないところでも問題ないから記入してくれ」
ん? 存在していないとは……あぁ、滅んだところでもってことか。まぁ俺の場合は違うがやっぱりこういう世界だとたまにあるのかな?
そういうことなら職業は飛ばして、出身地は……ニホンでいいか、地区とか書いてもどうせさっぱりだろうし。
「書けたか? それなら次はこいつに触れてくれ」
今度はなんだ……? 四角い箱の天辺に丸い球が埋め込まれた……まさかっ?!
これはあれかっ! くそっマズいっ!? どうしてこれの存在を忘れていたんだ俺はっ!!
どうする、どうすればいいんだ俺……っ!
「……ん? どうしたね? あぁ、もしかして今までこれを使ったことがないのか。
これは簡易鑑定装置だよ。鑑定と言っても普通の人にはそこまで重要なことが調べられる訳じゃあないから、安心して上の球に触れてくれ」
だろうよっ! どうせ鑑定装置だと思ったよっ!!
重要なことは調べられない? 俺にとっては忘れるべき忌まわしい出来事があんだよっ!
それが露見したら異世界文明的生活初日を塀の中からこんにちはでお送りすることになんだよっ!!
くそっ! もはやここに来て触れないわけにはいかない……はっ!? そういえばあのおっちゃんは俺に回復魔法を頼んだんだ! そして俺はそれに応じるも力及ばず爆散しただけで故意ではない、人助けの末の過失致死だっ!
ならば情状酌量の余地もある! なんなら使ったこともない回復魔法をおっちゃんに強要されて使わされたと言ってもいいっ! もはや殺人ではなく自殺幇助!
まったく……あれほど俺はやめとけ言ったのに、聞き入れないからこんなことになったんだぞ。あの世で俺に詫び続けろおっちゃん。
よし、なんとかなりそうな気がするし触るか!
「おっ、結果が出たな。どれどれ……ん?」
やはり出たな、だがしかぁしっ!! 俺には反論する余地があるのだっ! さぁどこからでもかかってこいっ!!
「おぉ、お前さんゴースを討伐してくれてたのか。そういうことは早めに自分から言った方がいいぞ? 場合によっては自分の手柄を横取りされることもあるからな」
……ふへ? あれ、なんか思ってたのと違う? てか討伐……?
クマ……じゃあないよな。ならあのおっちゃんは……犯罪者?
なんだよもーっ!! ビクついて損したわっ!!
「いやー、すみません。こういうこと初めてだったもので……」
「あぁいや、すまんな。そういえばお前さんそんな格好しているが若いもんな、そういう経験もなさそうだしどうすればいいかわからんこともあるよな。
とりあえずゴースにかけられた懸賞金は後で渡すとして、あとは……んん?」
ん? まだなにかあるの? てか……なんか顔が険しくなったような……え、なんでちょっと距離取り始め……いやいやっ! なんで出入り口の前に立って武器抜いたのっ?!!
「レイモンドっ!!」
えっなに、誰?? あっ、なんか部屋の外から駆け寄ってくるような音が……あっ、外に立ってる茶髪の兄ちゃんか?
……いや、なんで呼んだの? 俺もうやましいことなんてなにもない人畜無害な草よ??
「どうしましたっ!?」
あわわ……なんかヤバイ展開になってない?! どうすりゃいい!? とっ、とりあえず草になっておこうっ!
俺は草……そう草なんだよ。
なんかそう意識したら収納していた草がファッサ……と頭上から降りかかったよ。これ無詠唱でも取り出せるのね、新発見だよ。
「油断するなよ……こいつを見ろ」
あっ、さっきの鑑定結果見せてるよ。
まぁ俺草だから関係ないね、すー……はぁー……すー……はぁー……
うん、草の呼吸完璧にマスター出来てんじゃないかな? たぶん酸素吐き出してるよ俺。
「鑑定結果ですか……ゴースを……っ!? こいつはっ!」
あらやだ、剣なんて抜いちゃって物騒だねー。まぁ草刈り鎌じゃないからどうでもいいや。
すー……はぁー……あっ、そういや日光浴びてないから俺……酸素吐けてないっ?! こいつぁ大変だ! 草としての矜持を取り戻さないとっ!!
「あぁ、だから拘束を手伝……おい動くなっ!!」
はぁ~? 草が動くわけないじゃないですかぁ~、風ですよ、風。
かーぜに吹かれてゆ~らゆ~らしてるだけよぉ~。仮に動いたとしても日光を求めているだけでしょ?
「おい貴様っ! ヤツの手先なのかっ!!」
なに言ってんのこの茶髪ぅ~? 手先とかバカじゃねぇの? 俺にあるのは葉先と根っこだけに決まってんじゃん、俺草よ?
あっ、君あれか? 植物にも意思はある派の人か。あれ嘘だからな? 証拠は俺な。
「動くなと言って……話を聞けっ! もういいっ、やっちまえっ!!」
えっ? ちょっと待って急展開過ぎてついていけ──
「ぐっ、ウボアァーッ!?」
ごふあっ! こ、この茶髪……草に迷いなくタックル…………しやがっ……………………
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