街の中の根無し草
第13話 街だー!
もう間もなく夕暮れ時に差し掛かる時分にようやく建造物──アレスタの街の街門が視認できる距離まで近づいてきた。
「おっ、おぉ……っ! あれはファンタジーお決まりな街の門……つまり人が居て文明のある街っ!! 遠かったっ! あの腐れ神が変なところに転移させたせいで遠かったぞっ!!」
たしかに街から離れた森の前に転移させられたが、実際は頑張れば初日にはたどり着ける距離だったのだ。
だがこの男は無警戒だったためクマに襲われたのは仕方の無いことだとしても、その後の草原に留まり無駄に兎に喧嘩を売った事が最大の遅延原因なのである。
また道草を食ったり、草にまみれたり遠回りでも草原の中を移動することに固執したためさらに遅くなっただけなのだが、それを彼が理解する日は来るのだろうか。
「はっ!? 異世界あるある街の前で閉め出し野宿の可能性があるのかっ?! もう間もなく夜になろうという時刻……こうしてはいられないっ急げっ!!」
それにしても念願の人里と思わしき場所に辿り着けて喜びで浮かれるのはわかるけど、身だしなみの確認をしてから駆け出しても良いんだよ? 君の今の格好は萎びた草なんだよ?
当然そのようなことに思い当たることもなく、透け透け草男はピョンピョン駆け出した。
みるみる近づいていく門は閉ざされていることに気がつき、まさかもう閉め出されているのか? と諦めかけるも、さらに近づくと門の脇に人が2人立っているのが見て取れた。
ラストスパートの如く激しく跳び跳ね駆け出す変質者。少しは他人の目を気にしようよ?
「すみま「止まれぇ!!」せぇぇ…ん……え?」
え、なに? なんで止められたの?
「あのぉ~……入っちゃダメなんですか……?」
なんか門番?の2人がこそこそ話し合ってるんだけど……感じ悪っるぅ~……
あっ、片方の俺より年上な感じの西洋系な茶髪の兄ちゃんがこっちに寄ってきた。
「おいお前、人間か?」
他に何に見えるというのだろうか? 道中出会ったおっちゃんもだけど失礼な。
「もちろんそうですよ。というか他に何に見えると?」
ちょっとイラついたのでつい尋ね返してしまった。
「そっ、そうか。悪いがさすがにその格好で跳び跳ねてここに来るヤツなど始めてだからな……」
ん?……あぁ、そういえば毛玉に服をズタボロにされたせいで草着てるんだったわ。
「あー……すみません、今草なの忘れてました」
「それは……忘れていられるようなことか……? いや、まぁいい。それで、どうしてそのような格好でここに?」
「ここに向かっている道中兎に襲われて、服をダメにされてしまったのでしかたなく」
「兎というとマーダーズラビットか、そんな姿になるまでされてよく生きていられたな」
え、なにその物騒な名前の兎っ!? 地球の兎と対して変わらん見た目の癖してヤベェのだったのっ?!
「まぁそういうことならわかった。とりあえずあちらに場所を移すぞ」
おっ、どうやら誤解?は解けたようだな。
街に入る手続きかは知らんけど、もう1人の門番のおっちゃんの居るところに移動するようだ。
さきほど確認したことを報告してるのか、茶髪の兄ちゃんがおっちゃんに何か話している。
「なるほど、事情はわかった。それでお前さんなにか身分を証明できるものは持ってるのか?」
身分証明か、そういやそれも異世界定番の必須アイテムだな。とにかく人のいるところへってのしか考えてなかったわ。
まぁこういうのはギルド証とかが定番だけど、なくてもなんとかなるのもお約束だよな?
「いえ、ありません」
「そうか、それなら金を払ってもらう必要があるんだが……あるのか?」
まぁそりゃあるように見えんよな。何せ草だし。
でもダイジョーブっ! 何故ならお金を貰えるステキイベントが発生したからねっ、人助けはするもんだねっ! あんときは無駄とか言ってすまんなおっさん!
「多少ならありますよ、幾らですか」
こそっと硬貨の入った袋を呼び出し、草の中から取り出したように見せかけた。
アイテムボックス的なものは見られてはいけない、異世界あるあるを思い出せてよかったー。普通にポンとだすとこだったわ。
「ん? なんだ、金は持ってたのか。なら銅貨6枚だ」
へいへい……っと、うん、あるね。んじゃこれを渡してと。
「あぁ、確かに。それじゃ手続きするから中に入ってくれ」
ん? あぁ、身分証がないから仮発行とかでもしてくれるのかな? どのみち必要なことなんだしさっさと終わらせるか。
最初に話しかけてきた茶髪の兄ちゃんは見張りとしてなのかその場に留まるようだ。
手続きをしてくれるというおっちゃんは門の脇の扉の中に入っていくので、遅れないように着いていく。
中に入ると直線10メートルくらい先に扉があるのが見えた、おそらくその扉の先が街の中なのだろう。どうやらこの門、というより外壁は想像以上に厚みがあるようだ。
もしかしてここは主要都市だったり、首都だったりするのだろうか?
それともこれくらいの壁で覆われた街というのはありふれた物なのだろうか? もしそうなら、それくらい堅めないと危険な世界なのかもしれないな、なにせファンタジーな魔物がいるだろうし。
そういえば俺の遭遇したクマや兎は魔物だったのだろうか? などと考えていると通路の中央付近でおっちゃんが止まったところの横手には扉があり、どうやらその中で手続きを行うようだ。
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