第12話 真・新たな出会い



「さて、どうするべきか……」


 草原をピョンピョン進み数時間、イサムは窮地に立たされている。


 とはいっても直接的な危機が迫っているワケではない、ただ草原を進んでもこれ以上建造物に近づけそうにないというだけなのだが。


 しかしこの草野郎は全身草なのである、文明の欠片もない原始に生きる……いや、草が萎び始めもはや原始の存在にすら劣る丸見え露出野郎なのだ。恥を知れ。


 つまり平原を進むときが来ただけなのだが、さすがにこの全身草を晒すことに躊躇いを覚えているようだ。


「この平原、あまり草が生えてないのか……? 生えていても芝生のような丈の短い草しか見当たらんな。

 仕方ない、食料回収に時間を取られたくないし草原の草を確保しておくか」


 どうやら違った。このアホは飯の心配をしていたようだ。


 さすが変質者、局部に感じる風をどう捉えているのだろうか? 少しは恥を自覚してほしいものだ、この恥さらし。


 サクッと草を刈り取り収納し終えると、なんの気負いもなく堂々と平原へ跳び出た。


 現状新種の魔物として斬られてもなんら不思議のない風体の癖にマジかコイツ? と驚愕を覚えるが、誰憚ることもなくピョンピョンしているのだからマジなのだろう。


 休憩を挟みつつ進み続けて数時間、時刻は昼前くらいだろうかという頃にそれは現れた。



「モサモサ……なんというか、自然って見飽きるものなんだな。モサモサ……もっと変化とか動物くらいいても良いだろうに。モサモサ……ん?」


 なんだ、あれ? まさか……っ! おぉっ!? 第一野良人発見っ!!


「すいませーん!! ちょっといいですかー?!」


 よっしゃまずはこの人に人里があるか教えて貰おう! ん? てかなんでこんなところに1人で踞ってるんだ? まっいいや情報くれぃ、野良おっさんっ!!


「ちょっと道を尋ねたいんですけど、ここから一番近い人里ってどこですか? あっちに見える建造物ですか?」


「おっ……オメェ、人間……なのか? 紛らわしい格好しやがって……。

 それよか踞ってる俺にかける声がそれとか、どうかと思うぜあんちゃんよ?」


 む?……それもそうだな、初異世界人に遭遇してちょっと浮かれすぎていたようだ。


 多少身を起こしてくれたおかげで見えるようになった顔は山賊だかゴロツキみたいな、ワイルドな髭の厳ついおっさん顔だった。


 そんな顔して俺に怯えてたとか小心者なのか? それともあんまり強くない……いや踞ってるくらいだから弱ってるだけか。


「すみません、ようやく人に会えた喜びで浮かれすぎていました。それで何かあったのですか?」


「おうよ。いやなに、ちょいとヘマしちまって怪我したんだが、無理してここまで来たはいいがロクに動けなくなっちまったんだよ。

 あいにく俺は頭が悪くてなぁ……回復なんぞ使えねぇんだわ、もしあんちゃんが回復使えんならかけてくんねぇか? 多少の礼はするぞ」


 回復魔法か……そういや使えるって言ってたけど試してなかったな。兎にボコられたときはMPが切れてたし。


 ここは円滑に話を聞くために治してやるか。


「えぇ、いいですよ」


「ホントかっ! いや、ありがてぇ。なら悪ぃがさっそく頼むわ」


 そんじゃサクッと……どうやんの? まっ治ればいいんだし、なんかキラキラ~のペカ~でバチコーンなイメージで……


「それじゃ、ヒール」


 おっ、ちゃんと発動してるな。にしてもキラキラさせ過ぎたか? おっさんが見えねぇや。


「なっ?! おいあんちゃんっ大丈夫なのかこれっ!? なんかやたらと眩しいぞっ!」


 マズいっ!? なんかこの世界の回復魔法とかけ離れてるっぽい! とりあえずおっちゃんを落ち着かせないと!


「え~と、大丈夫ですよ。……たぶん」


「おいなんか最後に不穏なこと言わな──」


──パンッ!


「へあっ?! ちょっなに今の音っ!? おっちゃん大丈夫かっ! おっち……は……?」


 膝をついて踞っていたおっさんは、破裂音が鳴るや跳ねるように身体仰け反らせ、そのまま仰向けに頭部を失った身体が倒れていった。


「はぁ…………?」


 どういうこと……? 俺ちゃんと回復するのを想像して魔法かけたよ? なんで頭がパーンしてるの??


 というか俺……おっちゃんを…………殺っちゃった……………………?


「う~ん……まっ、殺っちゃったのものはしょうがないね! それに誰にも見られてないもんな! バレなきゃ犯罪じゃないだよっ!!」


 とんだサイコパス野郎の誕生である。


「それにしても危なかったぁ~……。兎にボコられたときにMPあったら使ってたよ。回復魔法は危険。イサム、覚えた」


 できれば人を殺めたことへの罪悪感を覚えてほしい。


「ありがとなおっちゃん、おかげで回復魔法の危険性を知ることができたよ。おっちゃんの尊い犠牲に敬礼っ!」


 とても敬っているとは思えないが、感謝はしているだろうことは伺える。が、それは殺害した本人が口にすべきことではないと気づく様子は微塵もない。


「さてと、供養も終わったし……お楽しみの剥ぎ取りタイムだーっ!」


 あれが供養のつもりだったことも驚愕だが、まだ死者の尊厳を汚すつもりですか?


「うっへぇ……血溜まりに浸ってたせいで服のあちこちが血塗れじゃねぇか……。洗えば落ちるかな? あっ、てか臭っ!? こりゃ駄目だ着れねぇわ、とりあえず洗って回収はしても雑巾行きだな」


 臭かろうが草よりましだろ、草野郎。


「後は……ナイフ? ダガー? まぁ刃物でいいか。それとこれはぁ~……おっ、コインか? んじゃこれがこの世界の貨幣なのかな? え~っと、銀と銅と鉄……の硬貨で、いいのかな? 金貨は無しか……しけてんな」


 原始人以下が何を言うか。


「さーて、休憩もすんだしそろそろ……っと、そういやこの死体どうすっかな~? 燃やすのはぁ、骨が残ってあれだな。それじゃ、コンクリ!」


 ズブズブと衣服を剥ぎ取られた死体が地面に飲み込まれていく。


 まさかと思うがコンクリ風呂に沈めて~の意味でコンクリと名付けたのだろうか? 工事現場の人はこのような蛮行はしないよ?


「うん、なにもなかったかのように綺麗な犯行現場! 目印もなにもないし最早発見は不可能だな!」


 あ、さすがに自身が殺人犯だという自覚はあったみたいだ。叶うならば自首してくれ。


「それじゃ無駄に時間を取られたし先を急ぐか!」


 残念! おじさんは無駄に殺されたようだ!


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