第8話 新たな出会い



 とりあえず平原に戻ろう。と遠くに見える山を目指して歩き出して10分、思った以上に草原に入り込んでいたらしく未だ脱出できずにいる。


「おいおい、俺どんだけクマとチェイスしてたんだよー? もうこの草飽きたよー、味変させろー」


 既にここの畳臭い草に飽き飽きしながら、なおもモサり続けていた。


──ガサリ


 草の擦れる音が聞こえ、そちらに目を向けると──


「モキュ……?」


 兎が居た。角が生えている……ということもなく普通の茶色がかった可愛い一般食料筆頭の兎さんだ。


「おっ、飯になりにきたのか? よーしよしよし、良い子だ」


 異世界に降り立ち1時間、既に精神は現地に適応し──


「モッ!!」


「ウボアっ?!!」


 ──たが、どうやら精神だけではどうにもこの異世界では足りないようで、無駄口を叩いている間に兎の覚悟はキマッていた。


 その結果、腹に頭突きを受けあっさり吹き飛ばされた。アホである。


 腹に収めた草を吐き出し踞っていると、兎が駆け寄り頭部を狙いムーンサルトをかましてきた──


「うぼぁぁ……ああああっ!?」


 ──が、すんでのところで気がつき転がり、なんとかそれを避けて立ち上がった。


「食肉風情が調子のんなやっ!! 風刃っ!」


 そう叫び、草を巻き上げて一陣の風が兎に襲いかかる。


 だが宙に打ち上げられた兎は何事もなかったかのように身を翻し、スッと地面に着地し──


「フーッ!!」


──ダシッダシッ!


 ──スタンピングである。


 それは戦いの合図であり、ことこの期に及んで戦闘は避けられるものではない。


 もはや狩られる者への慈悲はなく、ただただ兎の狩り場が形成された。


「はっ! クマ畜生との落差に油断したが覚悟しろや兎肉っ!! 石槍っ!!」


 手を兎に翳し、言い放つと共に石の槍が──


「……あり? ストーンランスっ!! なん……ステータス」


 ──形成されるも飛ぶこともなく、ボロボロと土くれに還り崩れ去るや喚き散らしながら無防備に棒立ちしていた。


「モッッキュッ!!」


「MP切れブボアっ?!!」


 再び腹に頭突きを受け、ゴミ屑のように吹き飛ばされた。


 だが幸か不幸か兎の一撃は未だ命を取るまでには至らなかった。


「ちょっタンマタンマっ!? 今MPないからっ! 後で再戦っ! なっそうしようっ!!」


 言い終わる前には脱兎のごとく情けなくケツを向けて兎から逃げ出したが──


「モッキュウウッ!!」


 ──当然兎に言葉が通じる訳もなく、テシテシ距離を詰められやがて……


「ちょっ! あっこのやめっ?!」


 兎が牙を剥いて噛みついてきた。


 迫り来る気配を察知したのか辛うじて避けてはいるものの、服はズタズタに引き裂かれていった。


 ちなみにこの兎、名をマーダーズラビットという草食の皮を被った立派な肉食獣である。


 そうマーダー〝ズ〟である。


 その狩猟方法はいたってシンプル、数で囲んで食い散らかすげっ歯類な毛玉畜生である。


 そのため当然──


「モキュッ!」「モキュキュッ!」「フキュウウゥッ!」「キュッモキュ!」……


「なにこれ大増殖っ?! やだっ私のお肉で足りるかしらっ??!」


 アホが錯乱するほど四方八方タシタシ鳴り響くスタンピング大合唱である。


 このマーダーズラビットと対峙するときに注意すべきは、決してスタンピンクをさせないことである。


 スタンピンクは仲間呼びの行動であり、許してしまうと辺り一帯の兎が集まってしまう。


 そのため実力の足りない者は何がなんでも手を出さず、オモチャが如く蹴り飛ばされながら逃げろと言われている。


 なおこの兎、1羽ならば討伐難度は低いものの、速やかに討伐できない者には先ほどのクマ以上の討伐難度を誇るこの草原の王者である。


 ちなみに森を迷い出たクマが兎に狩られていることもしばしばある。戦いは数だよ。


 さて、話は戻って現在この草食獣が取れる行動と言えば……


「燃ーえろよ燃えろーよー♪」


 そうだね、逃走だ……なんでわずかに回復したMPで付け火した?


 枯れ草ではなく生の草を燃やした結果、大量の煙で視界は遮られ兎は困惑してその場を去るもの、或いは怒りの声を挙げ突撃を敢行するものに別れた。


「あひゃはははははゴアッ!……ふっふはははははバボアッ! ダブッ! ペヒャッ!!」


 恐慌の錯乱草食獣は壊れた笑いをあげながら、次々突撃してくる兎に撥ね飛ばされ続けた。


 しかしその間も草原を侵食し続ける火の手により、怒り狂っていた兎はこれ以上は危険だとばかりに1羽、また1羽とその場から離れていった。


 最終的に草食獣──イサムは辛うじて生き残った。


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