第6話 ある日森の前……



 ある日森の前、クマさんに出逢った。


 ──さてどうする?


「ふひゃああああああああああっ!!」


 答えは脇目も振らずに逃げるだ。


 誰が好き好んで切り株バッキバキに粉砕できるおっきなクマさんに挑むと言うのか?


 全速力でクマの反対方向に逃げてきたが果たしてヤツはまだ追って──


「グルアアアアッ!」


 ──来てるね。なんでっ?! ここもう森じゃないよ! お家帰りなよっ!!


 はっ!? そういえばクマから逃げるなら背後を見せず荷物を投げて注意を逸らし、ムーンウォークが良いと聞いたような……くそっ! 徹頭徹尾間違えたかっ!


 でも仕方ないじゃん! そもそも腰かけた切り株の背後から忍び寄ってたし! 手荷物なんて何もないしクマ出没注意の看板もないし野生?なにそれな都会っ子だしいぃっ!!


 てかさっきよりクマさんの息づかいが近く聞こえるんですけどっ!? これ距離縮まってる?! 俺より速ーいっ!?


 あかーんっ! なっ何かっ何か無いかっ!? って何か仕掛ける動作やってる間にガブられるわっ! あぁ~もうっ!


「誰かたっけてー!!」


 叫んで無駄なのわかってるけど叫ばずに居られるかっ!? 視界の限り人影なしだよ! マジでどうすりゃいいのおっ?! 神に祈れば……ってそういやスキルあんじゃん!


 獣畜生風情なんぞ火で……いや、火で殺っちゃうと金にならん場合があるな。


 よし、まずは距離を取るため……あれ? これ英語でなんだっけ……?


 ……あっ別に英語縛りじゃないじゃんか!


「ストーンウォール!」


 背後に一気に高さ5メートルくらいの分厚い石壁がせり上がるイメージで叫んでみたよ! なんせ俺の倍くらいデカいクマだからね!


 ……いやあのね、言おうとしたときに英語思い出したのよ。でもしょうがないじゃん、思い出したら言いたくなるじゃんよ。


「グオッ?!」


 おっ、ドゴンと良い音鳴らしてクマ畜生が鳴いてるわ。どうせ怯んどるやろ~? そんじゃ……


「ストーンサークル」


 振り返りながら唱えると、先ほど出した石壁の両端に繋がる石の壁が円環状に隆起していく。


「よっしゃ捕獲成こ……ふぁっ?!」


「グガアアッ!!」


 あかん! めっちゃガシガシ殴ってる音してるわっ?! てか美味しいと評判のクマの掌の爪先石壁の上部からチラ見えしてんじゃんかっ!


「あわわえとあの……そうだ! 水で溺れ……いや、クマはサーモンキラーだぞ? 泳ぎが得意の可能性も……ならサンドフォールっ!!」


 ドサーっと大量の砂が石壁の中に流れ落ちていき、クマが困惑したような鳴き声を上げるも、石壁から砂が溢れるようになるとくぐもった声すら聞こえなくなった。


「ふぁ~……これだけこんもり砂山が出来れば身動き取れんやろぉ? 後は死体回収だけど……声出せないだけでまだ生きてるかもしれないよな?……ウォーターっ!!」


 うーん……なんとも外道チック。でも俺が生きるためなんだよ、悪りぃなクマ畜!


 は~……それにしてもいきなり全力ダッシュさせられて疲っかれたー。溺死するまで時間かかるだろうし休んどこ。


 石の椅子を作り出して腰かけ、草をモサりながら現在位置を確認しつつ息を整えていく。


「う~ん……夢中で走ったから思いっきり丘陵方面の草原に入り込んじゃったな。

 おかげで食べる草には困らんけど遠目で見るより背の高い草が生えてたんだなここ、俺の背より高くて見通しが悪いな……」


 まぁ最悪魔法で草を刈り取れば道に迷うこともないだろうし、今はクマだ。


 そろそろ10分くらい経つし異世界クマもさすがに生きてはいないだろ……? なにか確認方法があれば……ってそうだ。


「ステータス」


 異世界生死判定といえばステータス様がおられるではないか! まだレベル1なんだからクマ畜生を殺れば上がっているはず!


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