第2話 帰りたい……でも帰れない



「……他の方法はないのか?」


「んーほかのほほー?……しゃーないのー。ならウチのせかいくるかー?」


 ……ぶん殴っていいかなこの駄女神?


 それにしてもこの駄女神の世界か……出来れば他の神の世界の方がまだ良さそうに思えるんだが、だがコイツにそんな友人もツテもないゲロカス駄女神。他の選択肢は恐らく無いのだろう……


 はぁ……今日は気に入ったソファーでダラダラのんびり過ごすつもりだったのに、なんでこんなことになったんだよ?


「なーなー、はやくきめないか? おまえあといちじかんくらいでしょめつなー?」


「それをはよ言えボッチ駄女神っ!!」


「だれがボチかーっ!?」


 自覚くらい持てよ未来永劫悠久のボッチで生きる哀れな駄女神めっ! 黄昏てる時間がないなら無いで言えよ! なんでも後手後手にすっからボッチになってんだろこの駄女神。


「なんでもいいからお前の世界に行くよ行ってやるよアホボッチ!」


「ボチちがうー! ウチがここーなだけよー!」


 避けられてることを孤高と称するのかコイツの世界では、まぁそんなことはどうでもよくてだな。


「それでどうすればいいんだ? というかどういう形でそっちの世界に行くんだ? 転移系と転生系のどっちなんだ?」


「ながすなぁ~っ!!……うぅー、どちもいけるよー。

 でもてんせーはきおくのこすのできるだけよ。のりょくあたえると、こどものころでつかえるよ、でもからだもたない。すぐしぬね、じぶんでおぼえるよ。

 てんい、おくるときに、からだつくりかえるよー。のりょくあげるけど、なでもはムリ、いくつかだけよー」


 ふむふむ、転生は記憶のみで知識チートでもしろって方向か。


 世界に馴染むならそっちの方が良さそうだけど、コイツの世界でそれだけってのは心許ないと思うのはしょうがないよな?


 幸い俺は高校を卒業したばかりの18才の大学生だし、若返るのがありがたいと言えるほどの歳でもないから転移でいいかな?


 正直現地の知識を幼少期に学ぶ方が過ごしやすそうだが、身を守る術もなく知識だけ持って幼少期を過ごせる気がしないんだよなぁ。ある程度身分で守られ……ってそうだ。


「なぁ、その世界ってのはどういうところなんだ?」


「ん~……っと、だたいこれくらいねー?」


 おい、その手に持ってる本くらいの世界ってことか……? その、幸運だけが取り柄のカエルの餌やら爆破狂人やらドMを引き連れた苦労人の世界レベルの剣と魔法と絶望の中世ナーロッパ仕様なのか……?


 うん、転生は無しだ。


 何のために生まれて来たのかってくらいあっさり死ぬ未来しか想像できん。


 よし、切り替えていこう!


「……転移で頼む。それで、転移だとどんな能力がもらえるんだ?」


「じぶんでえらぶよー。チトむそーは、ムリおもう。つよいちから、きたえてつかいこなせなできる、じゃないと、じばくよ。だから、ちょとつよいまでのチトからえらぶよ。きたえる、むそーできるよー!」


 ふんふん、自分で選ぶのか。それにしてもチート無双はムリか……。まぁ別に戦いたいわけじゃないし、護身と金策が出来る様になれば問題ないか。


 それより自爆ってどういうのだ? 剣も握ったこともないのにブンブン振り回したり高速戦闘したりなチート能力を指してるのか?


 なんか身体を作り替えるとか言ってたが、あくまでその星で生きられる身体になるだけで身体能力が向上するとかはない感じか?


 うーむ……それならちょっと強いってのも負担が大きかったりするのだろうか? だけども、いざという時の切り札として持っておくのも有りだろうな。


 まっ、とにかく能力の一覧見せてもらってから考えるか。


「チートの一覧みたいなのあるか? あるなら見せてくれ」


「はいよぉ~」


 気の抜けるような返事と共に視界にメニューウィンドウのようなものが開き、一覧が表示されたようだ。


「おぉ! ファンタジーってかSFっぽいが初めて神っぽ……あん?」


「はじめててどゆことねっ!? ウチねんじゅーかみよっ!!」


 んー……けんじゅつ、みずまほう、きじょう、そうじゅつ、やみまほう……


 うーん、並び順はバラバラかぁ……実に駄女神。


「なぁ並び順がバラバラなのはともかく、なんで平仮名? いや、英語とかそっちの異世界言語にされても困るけど、すっげぇ読みづらいんだけど?」


「あーそれなぁー、ウチきくとよむはとくいよ! でもはなすとかく、とてもにがてなー」


 あぁ……ボッチだから暇潰しに違法視聴している動画やら書籍は見聞きできるようになっても、誰かとコミュを必要とする場面が存在しないからそっちは育たなかった感じかぁ……


「うーん、それならこれだけは取っておけってスキルはあるか? 正直サッと見ても意味が入ってきにくくて見落としそうなんだよ、てかスキル多すぎるんだよこれ」


「はいなー、それならいせかいげんごはとるよ! いまあげられれば、もとらくにはなせたのなー!」


 えーっといせかいいせかい……っとあったあった。それでこれをー……どうすりゃいいんだ? とりあえずポチっとなっと、おっタップすればいいのか。押した項目が黒から灰色に変わったな。


「他になにかオススメはあるのか?」


「んー、どれもあるべんりけどー……あっそうね! せいちょーあるべんりよー! せいちょでチトむそーましぐらよ!」


 なるほど成長か、確かに俺自身まだ若いとはいえあちらの世界では言ってしまえば18年遅れでのスタートみたいなもんだしな。


 ある程度強いチートが貰えるとはいえそれを使いこなして鍛える時間を考えるとあるとありがたいな。よし、せいちょう……っと。


「あとはかんてーくらいかー? のこりはじぶんのこのみえらぶよー、あちでいきるほほうわすれるなー」


 ふむ、鑑定もあるのか。あっちの常識もないし、鑑定で読み取りながら生きていけると多少は楽になるか……っと。


 あとは好みか……護身の方法として武器スキルは必須か、あとは魔法……あっ。


「なぁ、魔法のスキルもあるみたいだが転移したら使えるようになるのか? なにか必須スキルとか補助スキルがあったりするのか?」


「あー、せつめわすれてたよー。あちいけばまほーつかえるよ、まりょくひつようけど、てんいのとき、からだ、たえられるげんかいに、まりょくながれるね。いままできたえたひとよりおおいくらいなるおもうよー。

 それと、まりょくそさスキルあるけど、とる、やめとくね。あれじょーきゅーしゃようよ。とたらひ、だす、ひだるまなる、おこたりするよ。つよさもうごきもじゆじざい! でもはじめてひと、つかうスキルちがうね。そのうちじりきでおぼえるスキルよそれ。

 とるならめーそーよ。まりょくかふく、たかめる、つよくなるにとてもべんりねー」


 ほうほう、転移時に魔力が宿るみたいなものなのか。魔法はそれだけで使えるようになるけど、魔力操作は取ったらダメなのか。名称的に必須臭いのにベテラン向け上級スキルな立ち位置みたいだな。

 おそらく使い続けて魔力の動きのようなものを理解した上でないと変なところに魔法が発現して危ないということなのだろう。そのままならオートで使えるが取得してしまうと強制的にマニュアルで使うことになるスキルなのだろうか?


 とにかく魔力操作は見送るとして、めーそー……まぁ瞑想だろうな。めいそうは取得……で。


「回復魔法は存在するのか? あるなら光魔法なのか?」


「かふくあるよー、ほとんどのぞくせーにあるね! ただとくいのじょーきょーちがたりするだけよ。みず、やけどなおすとくい。ひ、とーしょーなおすとくい。でもどれもちゃんとかふくするね」


 ふーん、なるほどね。一部を除いてほとんどの属性に回復魔法が存在するのか、ただ付随して状態異常を治す効果の強さが違うって感じか。


 何となく理解はできる……ただそうなると部位欠損みたいなのは治せるイメージがわかないんだよな、あるのかわからないが時空魔法で治すというより戻すというなら想像できるけど……これも確認しておくか。


「なぁ、部位欠損は回復魔法で治せたりするのか?」


「あーそれなー。きれいちぎれたの、すぐくつけるはできるよー。じかんたつ、くつけるぶいない、そなるとムリねー。もどすまほーあるけどつかたひと、いのちけずるね。オススメないよー。

 まほーちがくて、くすりつかうね。いしゅんムリけど、じかんかけてはやすできるよー」


 欠損した部位が手元にあり、かつ直ぐに治療すれば治せるのか……。それ以外は魔法では無理か現実的ではないみたいだな。その代わり時間はかかるが薬で部位欠損が治せるのか……異世界すげぇな。


 そういうことならその薬は持っておきたいな、いやいっそのこと自分で作れるようにスキルを取っておくか。手に職があるのは悪いことでもないし。


 えー……っと、ちょうやく、これだな。あとは素材を自分で集めることもあるかな? それなら、さいしゅ……と、植物以外も使うだろうし、かいたい……よし。


 あ、そういやあれあるのかな?


「アイテムボックスとかストレージみたいなスキルは無いのか?」


「んー、そのものはないね。にたの、ときとくうのまほーのふくごーね。りょほうとるよ、でもじかんとめるいらないは、ときいらないね」


 時と空か? なるほど、空魔法があればアイテムボックスは使えるが時間停止機能なしで、必要なら時魔法も取らないといけないのか。

 その二つ揃えれば空間魔法だか時空魔法だかが使えるようになるのか、それなら薬の素材集めるのに時間停止している方が良いだろう、ときとくう……っと。


 あとは、魔法とか金策向きのスキルスキル~ポチポチポチっとなぁ~…………んお? どした? 全部グレー表示でタップしても反応しないぞ??


「なぁ、なんかスキルの選択ができなくなったんだが?」


「おー、けこうえらべたねー! それおまえのキャパシティにげんかいよ! でもそれいまだけな、あちでがばればどどんスキルおぼえるね!」


 あぁ、そういやなんでも取得できるわけじゃないって言ってたか。つまり初期取得上限に達したのか。


 まぁ転移後にも習得出来るようだし必要そうなのは選べたから問題ないか、にしても頑張れなんだろうけどガバりたくはないなぁ……一応見直ししとくか? てか灰色表示でなに選んだかわからんな、選択したのを見る方法はないのか?


「一応見直したいんだが選択したのを見る方法を教えてくれ」


「んぅ? それムリよー、せたくおわたらてんいするきまりね。あちいたら、ステタスいえばかくにんできるね」


「は? いやいや、見直しくらいする時間まだあるだろ? だか……はぁっ!? いやちょっと待って何これっ!!」


 言ってる途中でなんか身体がキラキラ光だしてるんですけどっ?!


「キャラメイクおわたらささといくがきまりね」


 ネトゲじゃねぇんだよっ!? 俺の今後の命運がかかった選択なんだよこれっ!! いやっそれよりも……っ!


「なんか初期アイテム的な物はっ!? 武器とか防具とか薬はっ?! せめて現地のお金だけでもいいから資金提供プリーズっ!!」


「はぁ……ゲムちがう、そなのないのことよ。それにウチにそなもんないよ」


「テメェなに顔背けて言ってやがんだっ! 金もなく送り出そうとすんじゃねぇよ! 初期資金もなくどうやって生活しろってんだよボッチ駄女神っ!!」


「おかねないてもいきてけるよー、ウチもずとおかねないのこと、けどいきてるよ。あとボチちがうねっ!!」


「テメェは盗んだもんで生きてるだけの根腐れド畜生なこそ泥駄女神じゃねーかよっ!!」


「ぬすむちがう、かてにみせつけられるのみさせられてるだけよ。そこのもふよーぶつかいしゅする、とてもエコなくらしね」


「どこぞの守銭奴みたいなこと言ってんじゃねぇよ! 見てんなら払えやアホ!! それにテメェが指差してるのは今日買ったばかりのバリバリ現役のソファー様だよエゴ泥神っ!」


「あ、そろそろじかんね」


 はっ?! いつの間にか身体が半透明になってやがるだとっ!?


「くっ、ちくしょうっ! せめてコイツだけはっ!! バイト代三ヶ月分つぎ込んでやっと手に入れたソファーだけでも……っ!」


「いまさらすがてもムリねー、しょじひんちがうからもてけないよ。それもうウチのよー?」


「ふあっ?! な……なんだとっ!? て、テメェの血は何色だっ!! 俺の努力の結晶を……たった数分しか座ってやれなかった俺のソファーを奪うというのかっ!?」


「けがしても、ちぃでるまえにふさがる、けどたぶんあかよー? あとうばうちがうよ、これかたみわけよ」


「旅立つ間際の俺に向かって何不吉なこと言ってやがんだクソ駄女神がっ! もういいっ!! 俺の手元から離れてしまうというのならこんなソファー……っ!!」


「んぅ? 何する気ねー?」


 どうか届けっ! 届いてくれ俺の声っ!! この想いをっ!!


「我が主よ!! 地球の神よっ!!!! どうかっ!! どうかこの盗むことしか知らぬ愚かな駄女神に裁きのいか──」


「なっなにいう……っ! はああぁ……いたね。またく、きこえないわかてても、しんぞわるいよー。

 ……んふふふっ、これでこのソファーウチの──」


──コンコン


「すいませーん、地球メディア利用の受信料徴収に来ましたー」


「ひぅっ?!……い、いないのことよー?」


「居るのはわかってますよー? ボッチのクセに男連れ込んでビッチに過ごしてるのはわかってるんですよー? 雷落としますよー?」


「なっ?! なんでバレたね……?」


「うちの子誘拐したのわかってるんですよー? はやくその子を解放して滞納した受信料払わないと落としますよー雷」


「これアイツのいのりでこちきたね……っ!? まずい、まずいよー! もうあちおくたあとねっ!! どどどどうすればいいねっ!?」


「ところでー、先ほどからうちの子の声が聞こえないんですけどー? もしかしてなにかもう……やっちゃいました?」


「ああああ……ウチの……ウチのソファー…………」


 この後めちゃくちゃサンダーストーム。


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