ねぇ、パパ。ググって♪

味噌村 幸太郎

第1話 最近の若いもんは……


 一週間ぐらい前の夜のことでした。

 保育園から帰ってきた娘ちんが、急に僕に頼み事をしてきました。


 この時点、怪しさがプンプンします。

 なぜなら、うちには二人の娘がおりますが、姉ちんに比べると、妹ちんはツンデレタイプで、僕に頼み事なんて、普通はしません。

 大体、マンガを買ってとか、大好きな動物の動画でも見せてくれとか、なんてことが多いです。

 父親である僕が母親である妻より、甘いと狙っての行為です。

 とても、あざといです。


 僕が「おかえり」と言った瞬間、「ただいま」も忘れてこう叫びます。


「ねぇ、パパ。検索して欲しいことがあるの!」


 上目遣いで、足をくねくねさせていました。

 今回は、一体どんな下らないお願いごとかと、僕は呆れていました。


「え、なにを?」

 僕が尋ねると、恥ずかしそうに答えます。

「あのね……黄色い花の花言葉を知りたいの…」

「は、花ぁ!?」


 予想外のワードに、僕は驚きを隠せませんでした。


 姉ちんに比べて、妹ちんはどちらかというと、食べ物、特にアイスが大好きなので、そんなおしゃれなことを言う少女ではありません。

 あと、我が家では『ググる』行為は、原則として、僕の許可を得ないと、今のところ検索できないようにしています。


 過去に、国民的アニメ『鬼をやっつける刃』の二次創作を検索したことがありまして……。

 18禁もので、主人公が炎の先輩を『うまいうまい!』していたイラストを見ていたらしく、それ以来、許可制にしています。



「花言葉? どうして、そんなことを知りたいの?」

「あのね……『ターちゃん』と娘ちんね、保育園終わる日に、黄色いバラを交換するって約束したの……だから」

「ファッ!?」


 ターちゃんとは、最近、バレンタインデーで両想いになれた男の子です。(仮名)

 僕は、大人げないですが、正直、カチンときました。

 パパとして、ターちゃんに嫉妬したのではないです。

 それよりも、6歳の幼児たちが、そんなおしゃれな行為をすることにです。


 僕は二十歳になるまで、今の妻と出会うまで、そういう機会がなかったから、ただのモテないヤツのやっかみです。


「ほう~ しゃれとんしゃーね。近頃の若いもんは!?」

(福岡の方言で『おしゃれですね』という意味らしいです)

 鼻息を荒くして、腕を組み、小さな娘ちんを上からジッと見つめます。


「ダメ、パパ?」

 娘ちんも負けじと上目遣いで、甘えます。

「フンッ! いいよ」

 大人げないですが、ムッとしながら、了承しました。

「やったーーー!」



 その後、晩酌をしながら、妻と料理を食べます。

 僕はハイボールを飲みながら、奥さんに頼みました。

「妻子ちゃん、妹ちんのために例の花言葉を検索してくれんかね?」

「いいよ……えっとね、黄色いバラは…」

 奥さんがスマホで検索し出すと、結果をみんなで待ちます。


「黄色いバラの花言葉は……『友情』だって」

 それを聞いた僕は、飲んでいたハイボールを吹き出しました。

「ブフーーッ!」

 絶句する娘ちん。

 僕はゲラゲラ笑ってしまいました。


 まさか、好意を持っている男の子に渡す花が、『友情』という意味とは知らず。


「ハハハッハ! 腹痛いっ!」

「……」

 言葉を失う娘ちん。


 かなり落ち込んでいたので、僕もフォローに入りました。


「まあ…無理して黄色のバラじゃなくても、いいんじゃない? それにターちゃんも花言葉なんて調べて買わないでしょ?」

「でも、でも……」

「想いを伝えるなら、十分でしょ。ところで、君はターちゃんと最後、チューとかしたいの?」

 僕が話題を変えると、急に照れくさそうにします。

「う、うん……したいかも」

「ハハハッハ! こりゃ、大変だ! いいんじゃない? 合意の元でなら。ちゃんと、ターちゃんに許可をもらってしなさい」

「うん、がんばる」


 結局、黄色いバラは買わず、王道の赤いバラにしたそうです。

 しかし、僕はそんな洒落たプレゼントを妻にあげたことありません。


 なんだか、もう6歳の娘に先を越された気分です。


   了

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ねぇ、パパ。ググって♪ 味噌村 幸太郎 @misomura-koutarou

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