オマケ~バトンは渡された?~

 ああ、どうもおはようございます。こんにちは。こんばんは。

 あっ、今須います阿佐比あさひです。


 ちょっと変わった出来事があったので、お伝えしなければなりません。

 それはいつもの駅前のコンビニで、バイトをしていた時でした。

 駐車場の片隅が、いわゆる不良のたまり場になっています。まあ集まって雑談しているだけ――ゴミは散らかし放題で、後で掃除をするのが面倒なのですが――どうせいつものこと。

 店のほうからも、学校には苦情はいっています。ですが、なかなか改善されません。

 たまにもめ事を起こされるのも、たまったものではないです。


「何だ? またもめ事か?」


 今日も何か揉めています。見たことがない青色の制服の少女。日本人ではなさそうなその女の子が、あの緑色の髪の不良(七月号オマケ参照)に絡まれていました。

 彼女のキャラメル色のツインテールが気に入らないのか、彼女の髪を引っ張り、何か叫んでいるようです。


「またあいつらか……」

「警察、呼んだ方がいいですかね」

「さすがに学校に電話だろ」


 一緒に働いている大学生の先輩が、電話に手をかけたときでした。


「おりゃあ!」


 ひとりの黒髪の少女が一団にツッコんできたのです。

 跳び蹴りを食らわし、男子ひとりを吹っ飛ばした。それからあっという間の取っ組み合い――というか、ツッコんできた少女が一方的に『不良達』を叩きのめしていったのです。

 その黒髪の少女が着ていた制服は、ウチの隣の高校。その黒色のセーラー服。結構優等な進学校だし、ウチみたいに異種族もいない、大人しい学校のはず。

 あんなケンカに強いヤツかいることに驚いてしまいました。


 ――鵜沼さんとか以上か!?


 なんか冷静に分析している僕がいるが、目の前で起きているのは暴力に他ならない。あの外国人を助けるにしても。


「やっぱり警察に!」


 そういっている間に、黒髪の子は不良達を片付けると、外国人の手を引いて駅のほうへ走っていってしまいました。


占部うらべッ!」


 その後を、ガタイの大きな大人が追いかけてきていた。偏見かもしれないが、体育教師がなにかだろうか。


 ――占部って、あの黒髪のこの名前か?


 ともかく、ケンカはあっという間に終わってしまった。



 ※※※



 落合おちあい一夜いちやは、珍しく怒っていた。

 連絡係の太田から、事情があるにしても彼女、占部うらべあきらが駅前のコンビニで乱闘騒ぎを起こしたというのだ。

 占部洸の居所は大体分かっている。自分のアパートか、地主神の長月ながつき様のいる茂林寺もりんじぐらいだ。

 そして、彼女は茂林寺にいた……いたというよりも、一夜が来ることを待っていたようだ。


「あのねぇ、占部さん。何度も言いましたよねぇ。まだ協議中だから乱闘は控えるようにと。ましてや私闘なんて」

「うるせぇなぁ。仕方がないだろ。こいつが絡まれていたんだから――」


 と、隣に見慣れない制服を着た子がいる。というか、あきらかに日本人には見えなかった。キャラメル色のツインテールの髪に青色の瞳。どう見たって外国人。


「誰?」

「聞いてくれ。オレがいた世界から来たようなんだ!」

「またひとり増えたと?」


 一夜はあからさまに、厄介そうな顔をした。


「何だよ。半年近く付き合っていて、やっぱりまだ信じていないのか? オレが別世界から来たって事が?」

「いえ、異世界があるとは、信じる信じないはアタシの範疇じゃないです。

 日本の魔女協会と、神様達のほうからも、あって当然と回答はもらっています」

「歯切れの悪い言い方だな」


 占部洸と一夜があったのは、去年の10月あたり。この街で……いや世界的に、禁止されている攻撃の魔法が使われた。

 そして、それを使用したのがこの占部洸――正確には、占部洸は前からこの街に住んでいた人間であり、それに憑依しているだそうだ。

 彼女がいうには、別の世界からやってきたというのだ。毛むくじゃらの化け物に襲われ、それを警察官に使用した。正当防衛で火の魔法を使用したという。

 半信半疑で一夜と長月様と話を聞き、それぞれ上へ報告した。

 その答えが、どちらも『異世界? あるんじゃない?』と、何とも曖昧な答えだ――もう少し堅苦しい言葉だったが。


「『世界を救え』でしたっけ? 占部さんが来てから、この街が妙な方向に転がっているようなんですけど。あなた方が来た所為ではないんですか?」

「やっぱり厄介事と思っているんだな。オレだってこんな世界イヤだよ。元の世界に戻りたいよ」


 しかも、憑依した人物を送り返すのには、『世界を救え』と曖昧なヒントだけだ。

 とにかく、その人物が元の世界に戻りたいと、いうものだから協力することになった……のは表向きで、一夜と長月様は上から、監視するようにいわれている。

 更に上の組織との協議中で、禁止の攻撃の魔法を使うのは緊急時のみ。

 そのが度々起こっているので、一夜としては頭の痛いことになっている。


「わたしは、どちらでもいいというか――」


 ようやく外国人の彼女が口を開いた……いや、話の間に割り込めないだけでいたのだ。


「何だよ。ええっと……ケイト・ジェインウェイだっけ?」

「確かにこの世界に違和感というか……この体も、自分じゃない感じがしていますが、不便なことは――」

「不便だらけだよ! さっきもお前、変なのに絡まれただろ?」

「――あれは……どうせ、いつものことです。

 のわたしですが、そのうちみんな飽きることを

「お前、マジでいっているの!?」


 占部は目を丸くしていた。

 そこへため息をつきながら、一夜は話し始める。


「ゴメン、ジェインウェイさん。

 帰りたくないといわれても、異世界から来たあなた方は、言うなればこの世界にとっては……言い方は悪いけど、異物なのよ。

 あなたが好む好まないにしても、バランスが崩れていくの。だから、どうしても、お二人には元の世界に戻ってもらわないと――」

「――方法は?」


 ケイトは占部を見る。


「――それが分かれば苦労しない!」



 ※※※



「あの学校にも、鵜沼さんみたいなのがいるんですね」


 僕は一夜先輩に昨日の午後の事を話した。

 バイト先のケンカに、隣の進学校の生徒が一方的に勝った話を――だけど、いつももめ事の大好きそうな一夜先輩の食いつきが悪い。


「どうかしましたか?」

「えっ、アア……」

「珍しいですね考え事なんて――」

「ちょっと! どういう意味よ。アタシがいつも何も考えていないような言い方して!」

「違いました? これまた失礼しました――」

「なんか感情がこもっていない……」


 感情も何もないだろうと、思ったが止めておこう。


「それに、鵜沼さんみたいなっというのは、彼女に失礼だわ。まるでかませ犬みたいな」

「あッ! 僕はそこまでいってませんから。そんなこと、鵜沼さんに聞かれたら、首を絞められます」

「首を絞められたぐらいじゃあ死なないでしょ? 吸血族は――」

「それはそうですが――」


 ――首を絞められていたいのはゴメンだ。


 確かこの理化学準備室には、前に先輩が張った結界の後遺症があり、鵜沼さんはよほどのことがない限り来ない。

 大丈夫なはずだ……だが、ちょっと待って、今、一夜先輩が誰かに手を振っていた。

 僕の後ろ――


「あっ! 青葉ッ!!」


 ドアが少しだけ開いており、誰かが過ぎ去った影が見えた。

 そうだ。ストーカーと化した彼女青葉のことを忘れていた。

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彼方なるハッピーエンド~……~ 大月クマ @smurakam1978

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