第五章 太陽③

「臓器提供カード?」

「爺ちゃんの書斎からみつかったんだ。爺ちゃんの好きな日本書紀の本にひっそりとはさんであった。特に特記事項のところみて」

「特記事項って・・・」

照子はカードを受け取って特記事項を目で追った。

さらに、照子の顔がくしゃくしゃになる。

「可能であれば肺は最優先に孫の照子へ・・・」

「爺ちゃんは照子に肺をずっとあげたかったんだよ。」

僕はできるだけ優しく照子に言った。

「うー!うーっ」

照子は声を殺して泣いた。

しばらく泣いた後、照子がゆっくり顔をあげた。その顔は憔悴した様子と心の底から幸せそうな表情が入り混じっていた。

「ばあちゃんが話してくれた。爺ちゃんは決してお前を捨てたんじゃないぞ。お前のばあちゃんが病死した時、爺ちゃんはお前の曽爺ちゃんが無茶苦茶責められたらしい。曽爺ちゃんは何かのせいにしなければ愛しい娘の死を受けいられなかったかもなって。そして爺ちゃんは生まれたばかりのお前の母ちゃんを残して家からでていかなくてはならなかったんだ。きっと、お前の母ちゃんも捨てられたような気持ちになっただろうな。いつも爺ちゃんは泣いていたってさ。」

照子は呆けたような顔で僕を見ている。

「なあ、なぜあんなに燕岳に拘ったんだ?そこだけはわからなかった。」

照子はベッドの上で座りなおす。

「私も亡くなる前にお爺さんに会いにいかせてもらったの。母に。母も移植のあとからは祖父への恨みは無かったみたい。むしろ、私たちが現れることで、あなたたち家族をめちゃくちゃにしちゃうんじゃないかってことをいつも心配していた。私はずっとお見舞いに行きたかったんだけど。一度だけお見舞いにいかせてもらえた。八月三十日だった。」

僕は夏休み最終日の照子の様子の意味がやっとわかった。

「おじいちゃんはすごく喜んでくれて、<大きくなったね。元気になってよかったね。>って。私はずっと心に秘めていた感謝を全部おじいちゃんに伝えた。ありがとう、おじいちゃんは私を救ってくれた神様だよって。でもおじいちゃんはあまり話せなくて、、、最後に言われたの。


「雄、、、、山に登って、、、」


「それがおじいちゃんの最期の言葉。それしか聞き取れなかった、、、」

照子は人目も気にせず泣き続ける。

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