第五章 太陽②

照子の顔がさっと曇る。目がみるみる涙であふれた。

「爺ちゃんが倒れたことで、照子のお母さんが全部教えてくれたんだな。牛尾善光が長野市にいること、そして牛尾善光の孫が同じ中学の同じクラスにいること」

自分の祖父をフルネームで呼ぶのは違和感があった。

「びっくりしたわ。自分に肺をくれた祖父に別に孫がいたなんて。お母さんはそれを教えたくなかったのね。病死した祖母を捨てて、祖父が別の人と結婚したなんて。母は実際自分が捨てられたと思っているみたい。だからずっと祖父とも連絡をとっていなかったみたい。でも、、、私にとっては神様だった。」

照子のほほを一筋の涙が流れた。

「死ぬしかなかった私を、、、絶望から救ってくれた神様だった、、、。だから、私はおじいちゃんのことを何でもいいから知りたかった。お母さんは決して教えてくれなかったけど。」

照子は流れる涙にかまわず続けた。

「あの日、初めて母は祖父のことを教えてくれた。祖父が心筋梗塞で倒れたことを知って。」

僕は頭をかく。

「爺ちゃんにはやられたよ。まさか、照子に肺移植をしてたなんてな。老人会の旅行って言って一週間いない日はあったけど。それ以外は全部日帰りだもんなぁ。早朝からゲートボール行ってただけだと思ってたよ。」

「雄!」

突然、ベッドの上で照子が土下座した。

「おい!なんだよ!」

僕は叫ぶ。

「雄!許してとは言わない。でも、本当にごめんなさい。あなたのお爺さんを私がうばってしまった。」

僕は意味がわからず目を白黒させる。

「移植手術なんてしなければ、あなたのお爺さんは死ぬことはなかった。お爺さんだってきっと仕方なく私に肺をあげたのだと思うの。お爺さんが肺をくれなかったら私は今頃死んでいたわ。他に家族がいない私のために母に頼まれて断れなかったんだと思うの。私のせいで。。。」

照子は金切り声をあげる。土下座している照子には見えないが、看護師さんがちらちらこちらを見るのがみえた。

僕は照子の気持ちがわかり、あきれたようにため息をついた。

「バーカ。先生にもそのあと聞いたけど。一年近く前の手術と心筋梗塞は関係ないってさ。」

「でも、私のためなんかに肺を、、、」

「じゃあこれをみろよ。」

僕は小さなカードを渡す。

照子は顔をあげてそれをみた。

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