第五章 太陽①
僕が照子の異変に気づいたのは、二〇一三年七月に入ったある日だった。
僕は絵が絶望的に下手だった。
だから、クラスの写生大会は憂鬱だった。
対して、翔馬はプロ並みに絵がうまかった。
特に自然を写実的にとらえることに対しては天才だった。翔馬に運動神経がなかったらきっと、芸術の道に進んでいただろう。
その翔馬は、芸術の先生や女の子達にキャーキャー囲まれとても近づけなかった。
一人で野球場でも書こうかと座り込んだ時、視線に気づいた。
見られている。ふっとその方向をみると一人の女子と目が合った。
その子は慌てて画板で顔を隠した。
そして後で気づいたのだが、照子の絵は翔馬のさらにその上をいくほど上手かった。
四月に名前順で後ろの席になった榎並照子とは少し話をしたが、それ以外の記憶はない。
照子は、いつもびくびくしていてあまり積極的にコミュニケーションをとろうとはしなかった。
しかし、七月に入ってから突然照子に見つめられることが多かった。授業中には今まで一度も落とし物をしなかった照子が、消しゴムを何度も落とし僕に拾わせた。
まったく目的がわからなかった上、消しゴムを渡しても
「ありがとう」
と目をそらしながら言うだけだった。
唯一僕より名前順が前の相川に拾われたときの照子の慌てようをみて、授業中にも関わらず、噴き出してしまったこともある。
練習試合のあの日、照子とまともに初めて話してからの日々はあっという間にすぎた。
そして僕は今、病室で照子の前に座っている。
「照子は知ってたんだな。俺たちの関係を。そして知ったのは七月の写生大会の直前だ。そうじゃないと照子の豹変ぶりの説明がつかない。」
照子は恥ずかしそうに目を伏せる。
「ばれてないと思ってたのよ、、、自然と仲良くなれたつもりだったのに、、、」
僕は苦笑いする。
「写生大会の直前に起こったこととして僕が思いつくのは一つしかない。爺ちゃんが倒れたことだ。」
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