第四章 神様⑥

しかし、祖父の希望で私は祖父には一度も会えなかった。

私のどうしてもという願いを母は聞き入れ、「文通」することが許された。

住所もわからないので、私が書いた手紙を母が祖父に渡してくれた。




私はまた病室にいた。燕岳から帰ったその日に傷跡が化膿し、免疫抑制剤を飲んでいる私は大事をとって入院し、点滴治療を受けた。

幸い私の単独行動は大きな問題にならなかった。三輪先生には頭が上がらなかった。

「暇だなぁ。みんな文化祭の準備順調かなぁ」

病室の窓から見える景色は、確実に秋に向かっていた。厳しい長野の冬が来るのだ。

翔馬は毎日お見舞いに来てくれたが雄は一度もお見舞いに来てくれなかった。

「何か調べてるみたいだよ」

翔馬は言っていた。

「うちのクラスって席名前順じゃん?前の席の照子がいないし、その前にいる雄も最近釣れないし寂しいよ。」

翔馬はおどけて言った。

「そうそう、翔馬なんで私の後ろなんだろうってずっと思ってたけど苗字「ながた」じゃくて「おさだ」なんだよねぇ。

「よく間違えられる。」

翔馬がいつもの屈託のない笑顔で言った。

クラスの女子も沢山お見舞いに来てくれた。


暇なので燕岳で雄にした話を反芻していたところだった。

父と母は離婚した。こんなできそこないのせいで夫も失ってしまった母に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しかし母は

「娘を守れない父親はいらないでしょ」

と笑った。

「肺移植の話の直前で翔馬来ちゃったからなあ。続き話したいのに。薄情だなぁ、雄は」

私はつぶやいた。

すると、冷たそうな風が外の木々を揺らしたかと思うと、雲がすごい勢いで流れていき、夕日が沈むのが見えた。

その時、病室の扉がノックされ扉が開いた。

そこに一人の少年が入ってきた。細身だった体が日焼けしたせいか少したくましくなって見えた。

「雄?」

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