第三章 燕岳⑦

またしばらく沈黙が流れた。

何をどんな風に聞いたらいいのか全くわからなかった。

「肺の病気でね。だいたい早くても中学校くらいから発症するの。肺がどんどんとけちゃって息ができなくなるんだ。私は発症が早くて、小学校六年生くらいから息が苦しくて・・・最初ぜんそくって言われてたんだけど、初めての入院で検査してわかったの。」

僕はあまりの驚きに何も言えない。

「難病だってわかって、しばらく入退院を繰り返してたんだけど、特効薬がない病気で。中学一年が終わるころについに酸素がないと生活できなくなっちゃって、退院できなくなったの。」

「でも、じゃあどうやって今みたいに元気になったの?」

照子はゆっくり僕を見た。その顔は穏やかな笑顔だった。

「神様が助けに来てくれたんだ。」

そう言って照子はゆっくり話し始めた。


照子の話は壮絶だった。驚きすぎて声が出なかった。

「それでその人が誰なのか自分でできるだけ調べたんだ。」

雨は少しずつやみ始めていた。頭はまだぐちゃぐちゃだが、なにより大事なことは今この状況を好転させることだ。

「オッケー。全然頭ン中整理できてないけど、みんな探していると思うし、いったん戻ろう。」

そう言って僕は立ち上がる。

「そうだね。」

照子もそう言って準備を始めた。

「そういえば、病名ってなんなの?」

僕が聞く。

「リンパ脈管筋腫症(みゃくかんきんしゅしょう)。英語でLAM(ラム)って言われてるの」

そう、照子が言い終わらないうちにガサガサと草をわける音が聞こえた。

大きなテントとビバーク(緊急避難的に野外で一夜を過ごすこと)の準備を大量にリュックに入れて背負った。屈強な体が眼前に現れた。

「翔馬!!」

僕と照子は同時に叫んだ。

翔馬はあのいつもの笑顔を僕らに向けた。

雲の切れ間からまぶしいほどの陽光が、槍ヶ岳を照らし始めていた。

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