第三章 燕岳⑥

「ごめん、雄。来てくれたんだね。」

照子が僕に声をかける。

「バカ!」

僕は大声で怒鳴る。

照子は、肩をすくめた。

「お前何かあったらどうするんだよ!何があるのかしらないが、自分をもっと大事にしろ!」

照子は

「ごめんなさい・・・」

小さな声でそれだけ言った。


幸い照子の怪我は大したことがなさそうだった。ただ、痛みと疲れで照子の体力だけでは登山道に戻ることは困難そうだった。雨はさらに強くなり、照子をおぶって登山道に戻るのは危険なため、幸い雨が入ってこない岩壁に覆われた窪みでしばらく雨宿りをしてから戻ろうということになった。

雨の音とそれによって強くなった草の匂いが立ち込めていた。

しばらくだまりこんでいた照子が突然話はじめた。

「あの日はごめん。」

照子がいう。あの日とは夏休みの最終日のことだろう。

「まだ怒ってるのかと思ったよ。避けられるし。」

「本当にごめん。雄に嫌われたかと思ったら、目を合わせられなくて、、、わけわかんないよね。いきなり殴って、登山に異常にこだわって。」

照子の声は消え入りそうだった。

少し間をおいて僕は聞いた。

「そろそろ教えてくれないか?いろいろと。」

照子はゆっくりうなずいた。まだ顔は下を向いたままだ。

「私ね。神様に会いに来たの。」

「どういうこと?」

僕は返す。

「私実は結構面倒な病気なんだ。たぶんそんなに長く生きられない。」

「えっ?」

僕は驚いた。

「今まで黙っててごめんね。不良娘とかタバコとか全部嘘。留年とか早退とか遅刻とか、全部病気のせい。」

照子は僕を見ず、雨の降りしきる草花を見ながら続ける。

「本当のこと話したら、二人とも登山訓練に付き合ってくれないと思って。」

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