第三章 燕岳①

爺ちゃんが亡くなったのは実力テストが終わり、集団登山の数日前だった。

爺ちゃんは不思議な人だった。いつも笑っていて腰が低く誰にでもペコペコしていた。

特にばあちゃんからは毎日怒られており、爺ちゃんがばあちゃんに逆らったのを見たことがない。そんな爺ちゃんは月に一回のゲートボールが趣味なくらいで、あとはずっと、小さな家庭菜園の世話をしながら家で生活していた。

しかし、農作業をしているからか、爺ちゃんは六十五とは思えない筋骨隆々とした体つきをしていた。風呂でいつもどうしたらそうなれるの聞いたが、

「ずーっと岩を投げる練習をしてたからかなあ」

とわけのわからないことばかり言われ、はぐらかされたのを覚えている。

でも僕はそんな爺ちゃんが大好きだった。爺ちゃんはいろんなことを教えてくれた。

竹とんぼの作り方、草笛、虫とり、熊からの逃げ方などなど。

どれも面白かったが小学校も高学年になると、友達との遊びに夢中になり、爺ちゃんと遊ぶこともなくなっていた。それでも爺ちゃんはいつも

「成績はどうだ?」

「いじめられてないか?」

「腹が減ってないか?」

など僕をいつも気にかけてくれていた。

爺ちゃんは亡くなる直前に家族一人一人を呼んで最後の言葉を言って息を引き取った。


僕はやはり僕のことを気にかけてくれ続けていた爺ちゃんを理由にずる休みをしたくなかった。

泣いているばあちゃんを横目に、火葬場から立ち上る煙を見ながら、僕は燕に登ることを決めた。


照子とは九月に入ってから全く話していなかった。僕と照子との間には大きな溝があるのに、集団登山の前日に張り出された実力テストの成績では、全体の三位の照子、四位の僕と隣に並んでいるのが余計に痛々しかった。

予想外だったのは、翔馬で一五〇人中の二十位につけた。翔馬はやはり天才なのだ。

翔馬と照子はよく話していた。

「文化祭さあ、<恋するフォーチュンクッキー>にしようよ。今すげぇヒットしてるじゃん。照子センターでどう?

「あのねぇ、クラスで一人だけ年上の私が、なんでセンターなのよ。」

ケラケラ笑いながら、照子が答える。

しかし、僕が自分の席に近づくと、

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