第二章 夏休み⑥

そして、そこから少しずつ照子を説得するつもりだった。しかし、

パン!

教室に乾いた音が響き渡る。

僕は一瞬何が起きたのかわからなかった。目をしばたかせて周りを見渡すと。照子がさっきよりも目を赤くして涙で頬を濡らしながら自分を睨んでいた。その照子の手の位置を見て、自分が照子に平手うちをされたとわかった。

照子は僕をしばらく睨みつけた後、立ち上がり教室を出て行った。

僕は怒りを覚えた。照子が集団登山に情熱を持っているのはわかった。でも、僕は殴られるほどのことをしただろうか。

「ふざけんなよ」

僕は立ち上がり照子を追った。

照子は三階に向かう階段の最上段にいた。

「照子!待てよ!」

僕は叫ぶ。

照子は踊り場まで歩を進めると、ゆっくりと振り返った。

夕闇が訪れた校舎。

階段の踊り場から自分を見下ろす目が猫のように光っていた。

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