第二章 夏休み④

「気持ちいいー!最高だね!登山って。」

葛山頂上から一望できる長野市を見下ろしながら照子はのびをした。

そんな照子をみて、僕らも笑い合う。照子は相変わらず抜けたところがあったが、年上と思えない近づきやすい雰囲気がいつしか、不良娘の噂など忘れていた。しかし、たまに見せる影のある態度が僕らの心をざわつかせた。

何より、なぜそんなに集団登山に情熱をもっているのか、それを聞けないでいた。体力がないならいつものように授業をさぼればいいはずなのだが。

そして、夏休み最終日がやってきた。


その日は朝から夕方まで部活で、図書館にも山にも行く予定はなかった。

前日についに戸隠神社奥社まで登り、九月の実力テスト後にある集団登山までに二〇〇〇メートル前後の山の山頂にも登れないか三人で神社で話し合った。翔馬が部活以外でこんなに楽しそうにしていたのを見たことがなかったし。照子も嬉しそうだった。二人につられて自分の学力も体力も向上していた。

練習が終わり、僕は球児達に占拠されたグランウンドの水飲み場を諦め、職員室前の水飲み場にやってきた。

「熱中症になっちまうよ」

そういいながら蛇口を捻った時だった。

「もういいです。こんなに努力しているのに何でわかってくれないんですか!!」

突然職員室のドアが開く。振り返ったとたん、目を赤くはらした照子と目があった。

「くっ」

照子は目をふせ、二階に向かって走り出した。

「おい照子!!」

僕は叫ぶ。しかし、照子が立ち止まらずにそのまま二階へと消えた。

「榎並さん!」

僕らの担任の三輪先生が職員室から出てきた。三十代後半くらいだろうか、二人の子持ちの生徒思いの先生だ。

「あら、部活?変なところ見られちゃったわね。」

三輪先生はトレードマークの眼鏡を直しながら目を伏せた。

「何かあったんすか?」

僕は汗を拭きながら聞く。

「榎並さんが留年してるのは知ってるのよね?あの子、学校も休みがちで体力もないから、集団登山は今回はパスするように、夏休み前に話したの。そしたら、夏休みに入ってから長田君も含めて三人で登山の練習してるって。ほら」

そう言って先生はノートを僕に渡す。

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