第二章 夏休み③

「あやまらなくていいよ。照子が本当に登りたかったんだなって伝わってるから」

翔馬は心配そうに照子をみる。

僕はいろいろなことを聞きたかったが照子の真剣な姿に口をつぐんだ。

青々とした木々をたたえた山からは蝉の大合唱が聞こえた。若干とはいえ市街から高度が上がっていることもあって、涼しい風も吹いてくる。僕も疲れているというほどではないが汗だくで、胸にはりつくTシャツが鬱陶しかった。翔馬は額にすら汗していないが、どういう構造なのだろう。

少しずつ、息が整ってきた照子から大きなため息が聞こえた。翔馬はどうしたらいいかわからずおろおろしている。おそらく翔馬なら、僕らが休んでいる間に山頂まで行って戻ってきていただろう。

このメンバーなら僕が仕切るしかない。悪役になるようで嫌だったが、僕は頭をかいて立ち上がった。

「今日は帰ろう。」

照子は顔を上げ泣きそうな目を僕に向ける。実際うっすらと涙がにじんでいるようにも見えた。

僕は困る。話のうまい人ならこういう時どうするのだろう。

僕は心を決める。

「とにかく、照子が不良娘でタバコの吸いすぎで体力がないことは今日よくわかった。八月いっぱいあるし、ゆっくり訓練やろうぜ。」

一瞬静寂が訪れる。まずかったか。翔馬が心なしか僕を睨んでいるように見える。その翔馬が口を開くより早く、大きな笑い声が響いた。

「あっはっはっは!」

僕も翔馬も驚いて顔を見合わせる。照子はひとしきり笑って涙をぬぐったあと言った。

「ばれてたんだ!じゃあ、私が留年してるのも知ってるんだね!」

今度は僕ら二人が大声を上げる。

「えぇ!!」

「あら、そっちは知らなかったの?年上なんだから、敬語使ってよね。」

そう言って照子はいたずらっぽく笑った。


僕らの特訓は八月いっぱい続いた。

練習の前後で図書館に行き、練習がない日や朝練のみの日は登山に行った。

翔馬は頭の回転はいいので少しずつ、勉強もできるようになってきた。特に暗記力は抜群で社会が得意だった。古事記や日本書紀の内容まで暗記していた。

また、照子も体力がないだけで、運動神経はいいのですこしずつ体力がつくごとに、山に登れるようになった。

ウォーキングから始めた特訓だったが、八月も中旬になるころには葛山にも登れるようになった。

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