第二章 夏休み②

日本二〇〇名山のひとつに数えられ、北信五岳のうちの一座として長野県北部を代表する山のひとつになっている。一九〇四mというと、びっくりされるかもしれないが、長野はベースの標高が高いので登山口からの標高差は八百メートルくらいである。しかし、山頂に近いところでは、鎖場が多く、ほぼ崖のようなルートもある。

「そうだな。戸隠神社奥社くらいならちょうどいいかも。どう照子?」

翔間も賛同する。

しかし、照子は目を白黒させ、ひきつった顔で言った。

「戸隠はもうちょっと力ついてから・・・葛山(かつらやま)くらいでどう?」

「葛山ぁ?幼稚園でも登るところじゃない?」

僕が言う。

「雄!失礼だぞ!」

翔馬が身を乗り出す。

照子は恥ずかしそうに下を向いている。

「じゃあ。いこうか葛山」

葛山はJR長野駅から歩いていける山。標高は八〇〇メートルくらいで、市内のハイキングにぴったりの山だ。頂上には城跡がある。

しかし、

「ぜぇ!ぜぇ!ぜぇ・・・」

長野駅に集合後善光寺まで歩いていき、地付山登山口まで来たところで照子がダウンしてしまった。胸を押さえ苦しそうだ。ルートは長野駅から地付山山頂まで行き、葛山山頂に向かうハイキングコースだ。大人の健脚なら午前中いっぱいで回れるくらい。

僕らは中学生なので1日かけて登山する予定だった。しかし、善光寺についたくらい、距離的には三〇分ほど歩いたころから様子がおかしくなった。

翔馬も僕も可能な限りゆっくり歩いていたが、照子が大幅に遅れはじめ、肩で息をし始めた。そこで地附山によらずに、直接葛山登山のルートに変え、国道406号を葛山に向かって歩いた。しかし、照子の様子はどんどん悪くなってくる。

「照子。大丈夫?一旦駅に引き返さない?」

翔馬が心配そうに言う。

「体調悪いの照子?」

僕も聞いた。平地を一時間弱歩いただけだ。あまりにも様子がおかしい。

しかし、照子は大きく肩で息をし、ひざに左手を置きながら、右手を挙げた。

「大丈夫。行かせて。」

しかし、裾花川を渡る橋の手前「戸隠古道と頼朝山・往生寺周遊道路入口」の標識のところで照子はついに立ち上がれなくなってしまった。

「はぁっ!はぁっ!・・・ごめん。本当にごめん、、、」

照子は心からすまなそうにしている。対して一瞬たりとも息を乱していない男が答える。

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