第二章 夏休み①
八月に入ると台風が例年より多く日本に来て、普段は台風の影響が少ない長野でも強い雨が降ることが多かった。
グラウンドもぐちゃぐちゃになり、練習ができない日は自主練のことも多く、僕らは図書館に集まって勉強するようになっていた。
「本当意外。翔馬ってなんでもできそうなイメージだったから。」
照子が心の底から驚いた顔でつぶやく
「しらなかったの?野球部の間では超有名。」
僕はもう何分も前からあきれている。
「お前らぁ頼むから見捨てないでくれぇ」
翔馬はおそらく天才なのだ。理論ではなく、肌で多くのことを学ぶ。野球では驚くほどの記憶力を見せ、システムで物を考える。しかし机の上で学ぶものには驚くほどカンが鈍い。テストの順位は必ず下位3位以内だった。
「もちろん!約束だし。なんとか頑張りたいんだけど・・・どうしたらいいか」
照子は途方に暮れる。
「気長にやろうぜ照子。こいつが頭悪いわけないんだから。野球のことなら、何でも覚えてるんだぜ。物理の計算みたいのもすごいんだ。ボール投げの最適な投射角度とかあっという間に計算するんだから。結局やる気の問題なんだよ。」
「俺は今、照子に助けてもらって人生最高にやる気を傾けてる!だけど・・・」
グラウンドに立つ翔馬はいつも味方でよかったと思える頼もしさがある。しかし、勉強のことになると体が一回りも二回りも小さく見えた。
「そういえば照子、あっちはいつ行く?そっちも気合入れてやらないと。」
照子の目が輝く。
「うん!そうだよね。練習っていつ休みなの?」
「明日は確か休みだったよな。雨がやめば行くか。」
僕が答える。
「そうか!そうだよな。どこにしようかなぁ・・・最初だしなぁ」
翔馬の目が輝く。
照子は、僕らに「登山の練習につきあってほしい」と頼んできた。
あまり運動が得意でなく、九月の集団登山が不安らしい。
確かに照子は体育を見学していることが多かった。しかし、卓球など瞬発力中心のスポーツはうまく、センスを感じさせた。
「じゃあ、戸隠山くらい?鎖場までいかなきゃ大丈夫だろ?」
僕は答える。鎖場とは、登山道のルートのことで道というよりも事実上の岩場を、鎖をたよりに登っていくところである。戸隠山は標高一九〇四メートルの山。
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