第一章 照子⑤
それしか答えられない自分を客観的にみて改めて僕は確信した。
僕は照子にいいところを見せたかったのだ。だからあんなに必死でバットを振った。
照子は僕と少し離れたところに、しゃがみこんだ。
なんとなく気恥ずかしくて照子の方を見ることができない。
「あんなに速い球を打てるんだね。すごいなぁ」
照子も僕を見ず、空を見ながら話している。
七月の終わりのグラウンドは蝉の声がうるさく響いていた。
「たまたまだよ。」
少し間をおいて、
「なあ榎並」
なんとか勇気を振り絞って照子の方を見た。
ゆっくりと照子も僕の方へ向き、
「照子でいいよ。雄。」
とつぶやいた。
僕は女子と話すのは得意ではないが、女子からここまで言われてしどろもどろになるほどシャイでもない。
「わ…わかった。照子。」
照子の大きな亜麻色の目が真っすぐに僕を見る。その目は、好意というより観察に近いものを感じ少し背筋が寒くなった僕は自然と目をそらした。
「どうして今日観に来てくれたの?俺たち、そこまで仲良くないじゃん。」
「どうしてって・・・長田くんに誘われたから。」
照子もバツが悪そうに明後日の方向を見た。
「翔馬から聞いたよ。俺が出るのかを聞いていたって。あの日だけじゃないだろ?結構野球部の練習とか、課外活動の写生とか、割と俺の近くにいるの知ってるんだぜ」
照子は目を丸くして僕の方をみた。心なしか頬が赤らんでいるように見える。しかし、それも好意を持っていることがばれたというよりも、尾行を気づかれた時の新米刑事のような気恥ずかしさのように感じた。なので僕は、
「もしかして、気づいてないと思ってた?」
少し意地悪く聞いてみる。
照子は目を伏せ、決まりが悪そうにうなずいた。照子がわかりやすいのか僕が意外に鋭いのか、とりあえず十三歳の僕にはわからない。
「気を悪くした?」
この一言でわずかに残っていた「照子が僕を好き説」が瓦解する。
「いや別に。ただ、何でかなって思ってたよ。今年初めて同じクラスになったのに何かにつけて話かけてくるなと。消しゴムとかシャーペンあんなに落とす人いないしな。この前なんて消しゴム転がりすぎて俺の前の相川が拾ってたし。」
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