第一章 照子③
美人ではあるかもしれないが、少し人を寄せ付けない雰囲気のある照子のどこがいいのか僕にはわからなかったが、純粋な男は少し影のある子に惹かれるのかもしれない。
「勝手にしろよ。」
そういって僕はキャッチボールを続けようとしたが、
「そうだな」
と言って僕のキャッチボール相手は今度の地区大会で盗塁王間違いなしとされているその俊足を飛ばして照子のところへ行ってしまった。あっけにとられている僕をよそにバックネット裏で照子と何か立ち話をしていた。話の途中、照子と翔馬が僕の方を見た気がしたがよくわからなかった。
同じように俊足で戻ってくると翔馬は言った。
「来てくれるってさ。」
「よかったじゃん。」
キャッチボールを続けようとする僕に翔馬がボールを受け取りながら言った。
「雄は出るのかって聞かれた。出るよって言っといたから。」
僕はぎょっとした。なんで照子がそんなことを聞いたのか?の前に、
「僕が出れるかなんてわかんないだろ!」
自分が出場しなかったときの恥ずかしさの方が先にたったのが情けなかった。僕は翔馬のようなパワーヒッターではなくどちらかというとヒット性のあたりを打つアベレージヒッターで、割とチャンスに強いので代打として重宝されていた。しかし、チームがのっているときにはわざわざ代打として使われるほどの実力はなかった。僕が出れる試合は大体半分くらいだった。
「第一何で俺を・・・」
そう言いかけて照子の方を見たが、もう照子の姿はそこにはなかった。
「よくわかんないけど、出ないって言ったら来てくれなそうだったからさ。最近雄調子いいし、代打で出れるよな。」
僕はあきれた目で翔馬を見る。
「今、レギュラーの鈴木さん、めっっちゃ調子いいぞ。」
その僕の恨み節には答えず小麦色の肌に対照的な真っ白な歯を僕に見せた。
翔馬のような天才には未来が見えるのかもしれない。心からそう思う。
「なんだってあいつの言うことは当たるのかなあ・・・」
右バッターボックスで僕はつぶやく。九回ツーアウト、満塁。三対一で負けていた。相手は市一番の強豪だった。わかりやすい見せ場。そこで代打で使われた。試合前から照子の姿はスタンドにあった。何度かベンチをずっと温めている僕と目があう。僕は決まりが悪くてたまらなかった。強豪が相手になると、僕が使われない確率が高まる。落とし物をしたときくらいしか話さない照子に何を期待されているのかもわからず、逆に薄気味悪さを感じていた。
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