第33話
【16・……一三人目】
未来の失踪が確実になると、当然宇津先生は、由実に執拗に尋ねた。どうして失踪の予知ができたのかと。
しかし、「ただの勘です」の一点張りで通した由実の姿は、翌週の月曜日の今日、教室に―――なかった。
宇津先生に尋ねても、学校に連絡は入っていないと、心配げな調子が返ってきただけだった。そしてこちらからも電話を入れたが、誰も出ないと。
ようすを見にいこうと思うという先生に、ぼくがかわりに責任を持ってと、放課後由実の家へ走った。
インターホンを押しても一向に応答はなかった。一階の窓にはすべてに雨戸がおろされ、見あげた二階のどの出窓も、カーテンが引かれていた。
翌日も隣が空席であることは同じだった。
昨日の石井家の状況を報告したぼくに、そっと先生が教えてくれたところによると、未だ母親からの連絡もないが、まだ失踪という判断をくだすのは尚早。―――そう学校側は考えているとのことだった。
しかしクラス内では、「愛人までも、消してしまったのか!?」―――そんな、恐怖度を増した視線をひっしと感じた。
石井家の風景は、昨日と寸分も変わっていなかった。念のためインターホンを押してみたが、スピーカーからは誰の声も返ってはこない。
かわりに、
「負けたのか……賭けに、ぼくは負けたのか……」
茫然とした自問が、脳内からくり返し聞こえてきた。
*
休憩中の札がかかった店のドアを押し開けた。
「ただいま……」
自然と蚊の鳴くような声になっていた。
「あ、庸くん!」
するとカウンターの中から、義兄さんの驚いた顔があがった。
「今、アトリエに!」
ありありと興奮した語調で、彼は二階を指す。
「え?」
「戻ってきたんだよ!」
戻って……きた!?
義兄さんには、昨日の由実の欠席、そして人気がなくなっている彼女の家のようすは伝えていた。
ぼくは階段を駆けあがった。
力任せに襖を開く。
「由実っ!」
叫び声は喉元でとまった。
「あ、カイチョ~!」
ふり返った小さな顔は、そういってニコッと笑った。
夏休み以来に見る私服姿の未来が、暮色を映す窓を背に、立っていた 。
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