第27話


     *


 夏休みの終わりに失踪した堀田巌。彼の訃報は、教室内ではなく、朝礼の場で校長からもたらされた。

 文化祭終了の翌日、学校は休みだったため、その次の日のことだった。

 校長の口からは事故死ということが強調され、詳細に関しては極力触れずにいたい―――そんな思いが受けとれた。そして、今後も校外においての行動は充分注意するようにと、散々聞かされた注意事項をくり返し、挨拶は締められた。

 だがネットのニュースサイトには、しっかりとこの事件の内容が掲載されていた。

《都内にある私立高校三年生の堀田巌君(一七歳)が、今月一五日の夕方、神奈川県の○○海岸で水死体となって発見された。遺体の損傷が激しく、警察は目下、事件、事故の両面から捜査を進める方針。なお、野球部に所属していた堀田君は、夏休み中の練習には欠かさず参加していたものの、八月の二九日から突然グラウンドに姿を見せることがなくなり、以降、行方不明者として捜索願いが出されていた。同クラブの部員たちに話を聞いたところ、堀田君は部内ではムードメーカーで、下級生たちの面倒見もよく、いなくなった理由はまったくわからないと、みな口をそろえた。また、同クラブの顧問教諭は、どうして彼がそんなところで見つかったのか、なぜ今まで見つからなかったのか、唇を噛み締め、首をひねるばかりだった》


     *


 クラスの緊張度は目に見えて高まった。

 あの日以来、カッターやバットの脅しはなかったが、かわりに加持祈祷に一層熱が入った感があった。昼休みにはクラスのほとんどが屋上にあがり、誓子を中心として、奇妙な祈りをどこか(誰か?)に向けて捧げているようだった。それだけなら構わないが、雨の日などは教室内で始めたりして、ぼくと由実は居場所探しに苦労した。

 排除対象のぼくに見られることなど、もう気にしている場合ではないのだろう。


     *


 なぜ、堀田だけ戻ってきたのか? それも、死体で。

 もちろん、ぼくは彼の肖像画など描いてはいない。

 もしくはこれが、失踪者帰還の皮切りなのか? だとすると、戻ってくる者たちはみな―――無残な姿?

 彼の件が知らされて以降、なぜか由実からは今までの朗らかさが薄れ、同好会に参加する前の彼女に戻ってしまったような感じを受けた。そしてその表情は、いつもなにかを思案しているような……。

 まさかぼくを疑ってるんじゃ?

 つい頭をもたげてしまうその不安は、ただでさえ速いとはいえない筆の動きを、一層重くした。 

 そのおかげで、秋の中高協会美術展の出展作品は、ぼくだけが未完成で提出期日を迎えてしまった。なので、同好会が始まって最初に仕上げた八号の作品を出した。

 ―――やっぱりストックをつくっておいてよかった。

 彼女たちはいつも通り、しっかりと仕上げた。が、持ち前の躍動感やダイナミックさが、今回の由実の絵から感じとれなかったのは……ぼくの気持ちの問題か?

 それでもなにはともあれ、ひとりも欠けることなく、今年の一大イベントである美術展へのエントリーが果たせ、ホッとした気分が訪れたのは正直なところだった。

 ところが、訪れたのは安堵感だけではなかった。

 三人そろって作品を美術展事務局へ送った翌日、担任から新たな失踪者についての伝達があった。

 今年度四人目の行方不明者。それは―――クラス委員長、田倉見誓子だった。

 皮肉にも、ほぼ二か月にひとりのペースで失踪者が出ているといった彼女が、その分析の信憑性を後押しするように、消えた。

 加持祈祷のリーダー本人が、犠牲になってしまったのか……。

 いい気味だ、などという思いは微塵もわかなかった。

 それよりも―――、

 このままのペースでいくと、卒業までにあとふたりは失踪者が出てしまう計算。

 どうすれば由実、そして未来を守ることができるのか―――。

 ぼくの頭の中はそれだけで占められていた。

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