第23話
*
副都心の隙間ない雑踏、間断ない騒音が、熱気をあおっていた。
日陰乏しきアスファルトを歩く身からはほとばしるような汗だが、その不快感がつい途切れがちになるのは、
『特に会長は、いわれのない恨みを抱かれてるんですから!』
未来のあの台詞による、怖気や不安からではなく、
『……とり込む』
思わず、といったように口にした、由実のあの言葉によってだった。
あのときの思いつめたような彼女の表情は、先生に関しての頭から洩れでたものではなかったような……そんな気がして。
そして継いだ、一見理論的に納得のいくような先生犯人説―――それを披露する確固たる口調はしかし、あえて自分の真意を覆い隠すためのカモフラージュだったようにも、今では思えて……。
そもそもぼく自身も、宇津先生犯人説は、無条件に首肯できるものとは思えていなかった。
だからといって、
「本当の原因は、なんだと思ってるの?」
と、彼女に問い質すこともできなかった。
それは、彼女がやすやすと吐露するとも思えなかったこともあるが、あの彼女のようすに対しての自らのその推測に、実際、充分な確証があったわけでもなかったから。
前を行く彼女たちの後ろ姿は、ぼくのそんな思いを露知らずといったように、軽やかな躍動を見せていた。
寄り添いはしゃぎ合うその影は、まったく仲のよい姉妹だった。
だが、由実に関しては、あえてのその振る舞いかもしれなかった。―――ぼくが危惧を覚えていると思って……。
時折ふり返る顔が送る柔らかな視線が、そう感じさせた。
普段なかなか訪れることのない都会の華やかさを満喫する時は、画材屋で費やす時間よりも、遥かに多くとられた。
案の定、それは未来主導でなったことだったが、あらゆる最新の流行に目を輝かせながら無垢な笑顔を見せる彼女に、寸時ぼくの意識から物思いがとり払われたのも事実だったので、困り顔は浮かばなかった。それは由実からも。
と同時に、カラフルな色のソフトクリームを交換し合う由実と未来を眺めながら、
このような時間を持続したい。消し去りたくない。
という願いが浮かんだのも、また事実だった。
そうするには一刻も早く、この怪事件(?)が解決すること。それしかないわけで……。
しかしながら、そんな希望はまたしても、すぐさま破られることになった。
*
新たな失踪者情報は、通常授業の日を待つまでもなく、翌日伝えられた。
夏休み中の練習には欠かさず参加していたらしい彼だが、もうすぐ九月に入るという先月の二九日から、ぱったりと姿を消してしまった、という。
昨日の彼の欠席は、出席の点呼時にみなの知るところになっていた。が、「失踪では?」との憶測のざわめきは、どこからもわかなかったように思う。それは、考えたくないという気持ちからか……。実際、ぼくもそう思いたくはなかった 。
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