第116話 天上の思惑
人の手による超能力や呪術を越えた、より高位の超常的な力に長けた者。それは手っ取り早く言えば、人の枠を超えた力であればいい。
「
というわけで窓からやって来たのは、光り輝く一対の翼を羽ばたかせて飛んできた天使、
「いや、今回はそれすらも分からん。人美が何かやったのか、何かに巻き込まれたのか」
「ま、お前ら3人でもどうにかならねぇって事は、それなりにヤバイ事なのかもな」
高性能ロボットの
「天使だからって万能じゃねぇんだが、それでも出来る事は人間より多い。原因の解明ぐらいは出来ると俺も思いてぇ」
横たわる人美に手をかざし、一度縮めた天使の翼を再び大きく広げる翔。その翼からあふれる神々しい耀きは、天の恵みそのものを内包する天上の力だ。その光が人美を包み込み、天使の少年はしばしの間じっとしていた。
「おいおい、ンな事あり得るのかよ……!!」
彼には一体何が見えているのか。やがて翔は翼を仕舞い込み、天使の光を収めた。その顔には予想外の答えを見たかのように困惑していた。
「翔、何か分かったのか」
「お姉ぇは大丈夫なんでしょうか」
空と
「人美のやつは生きてる。それを前提に聞いて欲しいんだが……」
そして、昏睡の原因を見つけた天使は告げた。
「コイツ、魂が抜けてやがる」
沈黙。
突拍子もなく飛び出した『魂』という単語に、翔以外の4人は思わず言葉を失った。
「魂が無い……?どういう事だそれ」
空が一番速く質問として考えを整理しようと動けたのは、彼が唯一『超常的な力』を勉強して身に着けたからか。彼が独学で身に着けた呪術にも、魂というモノは僅かながらも関わっているらしかった。
「言葉通り、魂がねぇんだよ。今の人美には」
「でも魂が無いなんて、人美ちゃんはまだ生きてるんだよね?私はそういうの詳しくないんだけど、魂が抜けちゃうのが良くないっていうのは分かるよ」
「そこなんだよなぁ……魂が抜けた状態の人間なんて、持って1時間までしか生きられねぇはずなんだよ」
ガシガシと頭を掻きながら、天使の少年はため息交じりに見解を述べる。
「だが方法が無いわけじゃねぇ。魂を抜いたまま肉体を生かす事が出来るヤツもいる。いるんだが……」
「それが可能な人物に心当たりがあるようね」
「さすが、
逡巡するように目を逸らした翔へ食い下がる真季那。彼が言いよどんだ理由を、皆はこの後すぐに知る事となる。
「言っとくが俺たち天使にも魂の直接的な操作は禁じられてる。つまり答えはひとつだ」
翔はおもむろにぴっと人差し指を立てた。いや、指を立てているのではなく、天を指さしているのだ。
「神」
あまりにあっさりと、天使はその名を呼んだ。
「魂の神。生物の魂を好き勝手操れんのは、その存在だけだ」
* * *
何も無い、辺り一面まっしろな空間だった。
「えっ、何ここ。夢の中?質素すぎない?」
そこにただ一人佇むのは、
「もっと楽しい夢見れないのかなぁ私。こんなのよりかはいっそ、普通に友達と遊んだり学校に行ったりする夢でもさぁ」
そこまで言って、ふと彼女の言葉が止まった。
「うん?」
夢。友達。学校。
自分自身で放ったワードが、何か引っかかる。
「…………あー!!思い出した!!」
広大な空間で大声を上げる人美。ここには誰もいないのだからどれだけ騒いでも迷惑にならないし、何もないのだからその声も白の彼方へ吸い込まれていくだけだ。
「私さっき変な夢見てたんだよ!マキたちみんなが変になる夢!」
言うなれば、皆が『普通の人』になった夢。ロボットでもなく超能力者でもない、皆が何の特別な力も持たない世界の話。
その夢が夢であると自覚した瞬間、目が覚めると思ったらこんな場所に来ていたのだ。
「いや、考えを整理してもわけ分らん……結局ここはどこなの。まだ夢から覚めてないの?それともどっかに拉致られた?」
「いえ、ここは夢ですよ」
突然、背後から人美の独り言に返される声があった。
勢いよく振り向くとそこには、数多のウェディングベールを全身に巻き付けたような細身の女性が立っていた。その瞳には無数の色が瞬いており、まるでここではないどこかを見ているような不思議な雰囲気の人だった。
この女性は、一体いつここに現れたのだ?
さっきまでは誰もいなかったはずの場所に忽然と姿を現した白い風貌の女性は、なめらかな声を発する。
「より正確にはあなたの魂に見せている幻。しかし非覚醒状態に見る幻覚という意味では、夢で合っているかもしれませんね」
「そんないきなり魂とか幻とか言われても……あなた誰よ」
「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。そもそも無理矢理この場所に連れてきてしまった事自体、まずは謝るべきなのでしょう」
見た限り人美よりも年上だろう背丈の女性は、無遠慮な人美に対して丁寧な口調で言う。そして、彼女に真正面から視線を向けられた人美は、理由も分からないが緊張してしまった。彼女がどのような『存在』なのか、まるで本能が理解してしまったかのように。
「私は『魂の神』と呼ばれる者です。今日はあなたに、ある相談があって招かせていただきました」
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