第114話 全て思い出した……!
無事に補習も終わって次の日の放課後。
「いやー、売り切れてなくてよかったー」
「発売日から1週間も経ってないでしょうそれ。そんなに早く売り切れるものなの?」
「分かって無いねマキ。進撃の人参は大人気作なんだよ!もたもたしてたらすぐ無くなっちゃうんだから」
「そういう物かしら」
「そういう物なの」
上機嫌に歩く人美と真季那は、やがて小さな橋に差し掛かった。この辺りでは割と大き目な川の上に架かる橋で、ここは二人の思い出の場所でもある。
「あ、この橋!最近通ってなかったから懐かしいねー」
「そう言えば、人美とはここで出会ったのよね」
「うん。入学式の少し前だったねぇ」
歩く速度を少し緩めて、人美はあの頃を思い出しながら川を眺める。
「川に落っこちそうになった私を、マキが助けてくれたんだよね。あの時はびっくりしたなぁ」
「それはこっちのセリフよ。目の前で人が川に落ちる寸前だったんだから」
「しかも助けてくれた子が同じ学校の同じクラスと来たもんだ。運命感じちゃうよねこれ」
「それは言い過ぎね」
「ええーひどーい」
そんな冗談を言い合いながら、二人は並んで歩く。こんなに仲良くなれる同級生とあの日たまたま出会うなんて、人美としては運命だと言い切れる謎の自信があった。
「それにしても落ちた時はヒヤッとしたよ。あの時の感覚は一生忘れないね」
「大袈裟じゃないかしら」
「いやいや、完全に空中に投げ出されてたからね私の体。骨折は覚悟してたもん。ほら、ちょうどあそこらへん」
今でも鮮明に思い出せる、と人美は自慢げに言いながら当時落ちかけた地点を指さす。だが、真季那はそこで怪訝そうに返した。
「そんな訳ないでしょう。あそこまで落ちてたら私が手を伸ばしても届かないわよ」
「え?」
人美の指した場所は橋と川のちょうど中間辺りの空中だった。確かに真季那の言う通り、あそこまで人美が落ちてたら落下中の人美と橋の上の真季那が同時に手を伸ばしても、お互いを掴めない距離だ。
「違うよ!あの時の事は1秒も忘れてない自信がある!」
しかし、人美は強く否定した。
「あの時私はもう駄目だって所まで落ちて、そんな時にね、マキが来てくれたんじゃん」
「どうやって?」
「空を、飛んで……そう!空を飛んで、私をキャッチしてくれたじゃん!!」
ズバリ、と言った風にびしっと指さして人美はあの時の情景を口にする。
「飛行なんか出来るわけないじゃない。漫画じゃないのだし」
「それでもマキは飛んでたよ!あの時のマキかっこよかったんだもん、忘れるはずないよ!」
身に覚えのない行動に対して面と向かってカッコイイと言われ、恥ずかしさと困惑で反応に困る真季那。
そして人美はと言うと、何か重大な事を思い出したかのようにハッとしていた。
「そうだ、そうだよ!マキは飛んでた、ロボットなんだもん!夢じゃない……!サキもソラっちもショーきちも、みんないつもと違った。あれは夢なんかじゃない!」
まるでいつまでたっても見つからなかった痛みの原因をようやく見つけたような、異常を見つけたはずなのに感じる妙な達成感。そしてその痛みの原因も、今はっきりと分かった。せき止められていた板を壊せば、あとは勢いよくなだれ込んでくる。
「みんなと過ごしたあの時間は夢なんかじゃない……」
知らぬ間に始まっていた間違い探しの答え。それを誰でも無く、己に突き付ける。
「夢なのは、この世界の方だ!!」
たった一人、違和感を抱き続けていた少女の答え。その一声が引き金になったかのように、景色に変化があった。視界のあちこちに亀裂が現れ、光と共に広がり始めたのだ。
空が裂ける。
そんな異様な光景を前にしても、人美は慌てたりしなかった。
夢から覚める。ただそれだけの事だから。
そうして。
少女は、世界を思い出した。
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