第113話 他愛のない会話……?
結局、たった半日の努力ではどうにもならなかったらしい。
数日後、見事に赤点を取った
「あ、ショーきちじゃん。なに赤点とったの?」
「地歴。あと2点でセーフだったんだよ。めんどくせぇなぁ」
「めっちゃ惜しいじゃん」
頬杖を突きながら面倒くさそうにぼやく翔。今回の補習は一つでも赤点があれば受けなければならないため、赤点一つだけならセーフであるいつもの補習に彼はいない。なので慣れてしまった人美よりも面倒そうな顔をしていた。
「あー。何で勉強とかしないといけねぇんだ」
「そりゃ生きる為だろ。極論」
「ソラっちざっくりしすぎ。もっとこうあるでしょ、就職とか進学の為だったりなんだり」
補習の先生が来るまでの間に、勉強しなければならない理由について愚痴をこぼす翔。やる気なさそうに窓の外へ顔を向けている彼は、空を翔る鳥たちを見てふと呟いた。
「自由に空を飛べたら、勉強なんて必要ねぇよなぁ。どこでも行けるし、何でも出来る」
「いや、それでも逃げられないと思うけどな」
「ていうかショーきち、空飛べなかったっけ?」
「……は?」
「またか人美」
人美の謎の発言に翔は首をかしげ、空は呆れ顔を作った。
「俺人間だし、飛べねぇけど?」
「あっ……そう言えば、そうだよね」
「そう言えばって。むしろ何に見えるんだ俺は」
「いやぁ、なんかショーきちなら飛んでそうって思えたんだけど」
「始業式の日も似たような事言ってたよなお前。俺が呪術使いで
「なんだそれ、面白そうな話じゃん」
先日人美が見た夢の話に興味を示した翔。人美としては友人が出て来た自分の夢を本人たちに話されるのは少し恥ずかしい気もしたが、幸か不幸か、補習の先生がやって来た事により話は中断された。
「自分が赤点取った各教科のプリント、終わるまで帰さないからなー」
「先生!俺あと2点で合格だし2問だけでイイだろ?」
「良いわけあるか。天塚、お前は全部解け」
翔によって総勢10名前後の補習教室に笑いが起こる中、人美は何気なく先ほどの青空を見上げていた。先ほどまで気持ちよさそうに快晴の空を飛びまわっていた小鳥たちは、もうどこにもいなかった。
* * *
「そろそろいいんじゃないかい?見るのもだんだん辛くなってくるよ、これ」
「情けない事を言うな。ここからが面白いんじゃないか」
その空間を占めるのは闇。自分の指先すら見えないような闇の中、不気味に浮かび上がる紋章があった。線や図形が組み合わさった、いわゆる魔法陣と呼ばれる真っ赤な幾何学模様。その闇の空間に居る男女は、その魔法陣の中心を眺めていた。
「歪んでいる事が正常である事象がここにある。本来の姿であるその『歪み』を正す事はこの事象において本当に正常化と呼べるのか。これはそういう実験だ。見逃すなよ」
「そうは言うけどさ、実験と言うのなら自分なりの答えは出しているんだろうね」
「もちろんだとも!我を舐めるなよ。この場合、本来あるべきである歪みを正す事はだな―――」
不気味な笑顔で机の上に描かれた魔法陣を覗き込む少女の声は、部屋の闇もろとも一瞬で引き裂かれた。
「失礼しまーす!」
大声と共に突然開け放たれた教室の扉。そこから差し込む光によって、電気を消してカーテンも閉めていた真っ暗な部屋から闇が消え去った。
「ぐぁああ!目がぁぁぁ!!」
真っ暗闇に慣れていた目に膨大な光が飛び込んできた為、少女は椅子から転げ落ちた。そして魔法陣の乗った机を挟んで向かいにいる少年は、光に目を細めながら来訪者を出迎えた。
「おや、いらっしゃい。ほら
「うるさい我の目を光で汚した不届き者はどこだボコボコにしてやるぅ!!」
目を抑えながらガバリと起き上がった
「やっほー、先輩たち。遊びに来ました!」
「なんだ人美か!よく来たな、入るがよい!」
「おじゃましまーす」
補習を終えた人美が寄り道に来たこの教室は、魔法研究部の部室。今日も今日とて不気味な魔法陣でなんやかんや騒いでいる部員は、部長の魔音と副部長の
「今日はまた何してるんですか?」
「家の押入れから腕の取れた人形が出て来たから魔法の実験に使ってるのだ。見てみるか?」
「ふーん。うわっ、何コレこわ……」
教室の中心に置かれた机には真っ赤なペンで描かれた魔法陣があり、下からライトで照らされている。そしてその中心にあるのは、右腕の無くなった西洋人形が座っていた。その虚ろな目は可愛らしいどころか不気味だった。そして、傍らには別の人形の右腕が転がっている。
「まさか、これをくっ付けるのが魔法の実験……?」
「ああもちろんだとも。本来は右腕が無い状態こそこの人形の『いつもの姿』であるが、客観的に見れば右腕がある状態の方が正常と言える。この場合、別の右腕をくっ付ける事は正常化と呼べるのか、もしくは『いつもの姿』を歪める異常行為になるのか。それを魔学的な観点を踏まえて考える実験だ」
「なにいってるのかよくわかんない」
「まあ要するに、それっぽい儀式をそれっぽい演技でやってるだけさ」
「おいコラ唯羽!それっぽいとか言うな!」
不気味な西洋人形片手に力説する摩音と、対照的に身もふたもない事を笑顔で言う唯羽。人美にとっては見慣れたいつもの光景に、笑みをこぼした。
「でもこの部活、いつか本当に魔法発見しちゃったりしそうですね。先輩たちが魔法使ってる姿、何故だか鮮明に想像できますし」
「お、そうか?人美はなかなか優秀な後輩だな。入部しないか?」
「すいませんが部活はパスで」
「……少しは悩んだりしろ悲しいだろ」
部活動そのものにあまり良い思い出のない人美は笑顔のまま即行で断った。
しかし一方で、さっきからいつものドヤ顔で魔法を使う摩音の姿が脳裏にちらつくのだ。やけにリアルな想像に、摩音の活動が実る夢でも見たのだろうかと疑問に思う人美。結局その謎は、解けないままだった。
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