■■の三学期 編……?

第111話 変わらない日々……?

 クリスマスが過ぎればあっという間に年が明け、気付けばもう三学期。呼詠こよみ人美ひとみは寝坊していた。


「やっば寝過ごした!!」

「お姉ぇ、真季那まきなさんもう来てるよー」

「今いくー!」


 急いで支度を終わらせ騒がしく玄関扉を開け放つ。家の前ではもこもこした温かそうなマフラーを首に巻いた真季那が立っていた。


「おはよう。三学期初日から慌ただしいわね」

「冬眠暁を覚えずって言うじゃん。行こ行こ」

「言わないわよ」


 白いため息を零しながら、歩き出す人美の横を進む真季那。遅刻しそうだからか2人とも早足だ。


「最近寒いよねぇ。マキのそれあったかそう」

「今年の冬は特に寒いものね。重宝してるわ」

「そっかぁ。ロボットでも寒さには弱いんだねぇー」

「ロボット……?確かに機械類は寒さや温度差に弱いって聞くけれど……何で今そんな話を持って来たのかしら」

「え……?」

「え?」


 急に生まれた無言の時間。思わず人美は歩みを止めた。


「どうしたの、人美」


 いきなり立ち止まった人美を不思議そうに振り返る真季那。人美は真季那の顔をじっとみたまま、言葉を選ぶような不自然な間を開け、言った。


「マキって……ロボット、じゃなかったっけ?」


 そう訊ねる人美の顔は、やけに真に迫っていた。まるで、今まで見慣れて来た物が一晩にしてまるっきり変わってしまったかのような、を目の当たりにしている顔だ。


「まだ目が覚めてないのかしら、人美。私は普通に人間よ」

「えっ、夏の始めの方に暑いとメンテが多くて大変だねーって話してなかった……??」

「……そんな覚えないのだけれど。本当に大丈夫?」


 心配になった真季那は立ち止まる人美の額に手を当てて、もう片方の手を自分の額に当てる。


「風邪を引いてはいなさそうね。となると変な夢でも見てたのかしら」

「夢、なのかなぁ……。マキの腕から放たれるプラズマ砲を間近で見た気がするんだけどなぁ」

「完全に夢ねそれ。何故私の腕からそんな意味の分からない兵器が出るのかしら」


 うろたえる人美に呆れ顔でツッコむ真季那。いつも通り冷静な彼女を見ていると、人美も少しずつ心が落ち着いて来た。


「そう言われると……そんな気もしてきた。夢だったんだ、うん」


 納得がいくとすっきりしたのか、人美は普段通りの様子に戻っていた。再び歩き出す2人。


「それにしてもユニークな夢ね。人美らしいと言えば人美らしいけれど」

「でも本当だったら面白くない?天才博士に作られた美少女ロボット!」

「まさか。機械の体なんて私はゴメンだわ」

「えー、便利そうじゃん。クラスマッチとかでもきっと大活躍だよ?」

「そんな事しなくても運動能力に問題はないわよ。現にクラスマッチだって決勝まで上がったのだし」

「うわぁ。勉強もできてスポーツもできるなんて、ほんと羨ましいですなぁ」


 人美が見た夢の話を広げながらも駆け足で学校に到着した2人は、何とかチャイムが鳴る前に教室に駆けこんだ。どうやら遅刻は無事に免れたようだ。


「あ、人美ちゃん真季那ちゃんおはよー!」

「おは、よう……」


 教室に入った2人を見つけて元気に手を振る皆超みなこえ才輝乃さきのと、瀕死状態のような覇気のない挨拶をする殿炉異とのろいそら。才輝乃はいつも通り明るく元気だが、空はいつにも増して眠そうだった。


「あれ、サキとソラっち私たちより早かったんだ。いつもはギリギリなのに」

「新学期初日の空君はいつもより起きるのが遅いって分かってるからね。早めに起こしに行ったの」

「さすがサキだね。ソラっちも、こんな素晴らしい幼馴染が向かいにいる事に感謝しなよ」

「いつもお世話になっております」

「人美も今日寝坊したでしょう?人の事言える立場ではないと思うのだけど」

「うっ……お世話になっております」


 全く同じ言葉を繰り返す寝坊組2人。そこで人美は、ふと気になった事を口にした。


「そう言えば2人とも、超能力とか呪術とか出来るんだし、どうにか寝坊しない良い方法とかあるんじゃない?」


 まるで普通の事のようにさらっと言った人美だが、周りの3人は皆困惑していた。不自然な無言の時間。今日で二度目だ。


「え?」

「超能力?呪術……?」

「えっ、サキもソラっちも、何その反応」


 人美の言ってる事が理解できない才輝乃と空は困惑し、おかしな事を言ってしまったのではないかと人美も焦り始める。


「人美が何を言ってるのか分からんが、俺は超能力とか使えないからな。漫画じゃあるまいし」

「えっと、呪術って呪いの事だよね。私もそんな怖い事してないよ……?」

「いやいや、サキが超能力者でソラっちが呪術使いだよ。そうでしょ?」


 今の人美が冗談を言っているようには見えなかったが、それでも心当たりのない2人は顔を見合わせてキョトンとしていた。


「いや、知らないよな」

「知らないよね」

「あえぇ……私がおかしいのかな」

「きっとまだ寝ぼけてるのよ。それほど印象に残る夢だったんでしょうね」


 忘れてはいけない大事な事だった気がするのに、どうしても思い出せない。思い出そうとしているうちに、何を思い出そうとしているのかが余計分からなくなる。あるいは本当に、昨晩見た夢と現実がごちゃごちゃになっただけなのだろうか。


「夢って何の話?」

「人美が今朝見たらしき夢の話よ。その中では私はロボットらしいのよ」

「へぇー。じゃあ私が超能力者で空君が呪術使いっていうのも夢の中では本当なんだ」

「まあ、俺と才輝乃はともかく真季那がロボットっていうのはしっくり来るな。なんかハイスペックだし」

「いつもクールだもんね、真季那ちゃん」

「2人までそんな事を……」


 何かがひっかかる。

 真季那と才輝乃と空の会話をうわのそらで聞いている人美は、ぼんやりとそう思っていた。


(本当に、夢なのかなぁ……)

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