純白のクリスマス 編

第105話 真実の所在

 2学期の終業式もつつがなく終え、学生たちは冬休みに入る。それは高校に通っている限り、高性能美少女型ロボットの真季那まきなであっても例外ではない。


 人間とは比べ物にならないほどの記憶容量と演算能力を持つ真季那は宿題を半日で終わらせ、今日は生みの親である理恵りえ博士に頼まれて少し大きなスーパーへおつかいに来ていた。


「おい、いい加減手ェ放せよ」


 そして今日の真季那は一人ではない。迷子にならないよう手を繋いで隣を歩いているのは、ちょうど真季那を小学生にしたような見た目の少女。黒よりも暗い暗黒色の髪をお団子付きポニーテールにしている彼女は、真季那が夏の自由研究として宇宙から拉致って来て以来真季那家で暮らしている、『暗黒物質ダークマター』が少女の形になったものだ。


「駄目よ。さっきだって目を離した隙にすぐどこかへ行ってしまったじゃない」

「あれは赤と白の不気味な物体がうろついてたから気になっただけだ。ホラ、あそこにも!」

「サンタクロースの着ぐるみよ、あれ」


 今日は12月24日。クリスマスイブだ。

 ここは近所のデパートにも引けを取らない大きなスーパーだからか、サンタクロースのコスプレをした店員はもちろんの事、サンタクロースの着ぐるみをかぶった者まで建物内を歩き回っていた。地球のサンタクロースを始めて見る『暗黒物質ダークマター』は興味深そうに眺めていた。


「ほぉ~、あれが。話には聞いた事あるぞ、サンタクロース。夜中に家に忍び込んでプレゼントくれるヤツだろ?」


 ドヤ顔で知識をひけらかす『暗黒物質ダークマター』。真季那はそれに眉一つ動かさず反論した。


「サンタクロースはいないわよ」

「は?いるだろ。私はどっかでそう聞いた」

「いないわよ。あなたが見た目相応に夢を見ているとは思っていなかったわ。でも残念ながらいないの」

「何かムカツクな。いるもんはいるの!」


 食べ物売り場にて、買い物カゴへ頼まれた食材を入れながら言い合う2人。地球に来てから真季那そっくりに変化した『暗黒物質ダークマター』と手を繋いでいる真季那は、傍から見れば仲の良い姉妹にも見えるだろう。実際はロボットと宇宙の物質なのだから、血のつながりどころか血すら通っていないのだが。


「こと『情報』の扱いにおいて私の右に出るモノは次世代スーパーコンピューターぐらいよ。そんな私がいないと言うのだからこれが真実よ」

「いいやいるね!情報通を気取ってるお前はサンタ村を知らねぇのか?」

「サンタ村って、フィンランドのロヴァニエミ市中心街から北へ数kmの北極線上にあるアレでしょう?もちろん知ってるわよ。もちろんいればの話だけれど」

「詳しすぎだろオイ」

「聞いておいて勝手に引かないでちょうだい」


 ちょっと機械の力を見せつけた真季那だったが、『暗黒物質ダークマター』はそこまで正確な情報は聞いてない、とちょっぴり引き気味だった。


「けれどそこにいるのは全部人間よ。諦めなさい」

「んな訳あるかよ、サンタ村って言ってんだからサンタクロースがいるに決まってるだろうが」

「往生際が悪いわね……しつこいとお菓子買ってあげないわよ」

「ぐっ……」


 買うべき食材を一通り確保できた真季那は腕を引っ張ってお菓子コーナーへ連れて行こうとする『暗黒物質ダークマター』へ冷たい一言を浴びせる。『暗黒物質ダークマター』は甘い物が好きなようで、駄々をこねる子供をたしなめるようなこのやり方は地味に効果があるのだ。


「いいや、私は認めない……サンタクロースはいる!」

「なら直接サンタ村にでも行ってみればいいわよ。あなたなら見ただけで人間とそうじゃない生き物の区別ぐらい付くでしょうから」

「ふっふっふ、そんな面倒な事はせんでいい。なぜなら今日はクリスマスイブだからな!」


 両手いっぱいにお菓子を抱えた『暗黒物質ダークマター』は何かを企んでいる顔で言い放った。お菓子は2つまでと決めていた真季那は、『暗黒物質ダークマター』に他のお菓子は置いて来るよう無情にも宣告しつつ、続きを促す。


「と言うと?」

「今夜、私の部屋に忍び込んだサンタクロースをとっ捕まえてしまえばいい!」

「……やっぱり、まるで小学生のようなアイデアね」


 深夜まで起きてサンタクロースと会いたいなんていうのはまさに小学生辺りが思いついてやりそうな事だ。そして夜更かしするような悪い子の元にはサンタさんは来ない、と言うのもそれに対する対抗策の典型である。まあ『暗黒物質ダークマター』はそんな事を言っても止まらないだろうが。


「という訳で今夜は徹夜だ。お菓子買っていいだろ?」

「駄目よ」


 そしてどさくさに紛れてお菓子をたくさん買う作戦は失敗に終わった。こんな調子なのだから、きっとサンタ捕獲作戦も大したことないだろう。

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