憤然の魔猫抗争 編

第100話 ガンバレ撮原さん

 ここは新聞部の部室。中では机を囲んだ新聞部員たちが今月の学校新聞について話し合っている所だ。


「一面を飾るにふさわしい記事は何か無いか?」

「秋って意外と何もないよなぁー。2年生の修学旅行は3学期だし」

「校長先生がカツラ選びに3時間かけた話は?」

「インパクトに欠けるわね。それに取材しようにも出来ないでしょ、本人に聞く訳にもいかないし」


 記事選びは難航していた。秋から冬にかけての2学期終盤。これといった大きな出来事が見当たらなかったのだ。

 このまま長々と話し合いが続くと思われた、そんな時だった。


「すみません遅れましたあああ!!」


 元気いっぱいの大声で扉を開け放ったのは、新聞部撮影担当の撮原とりはら写漏うつろという少女。1学期の壮絶なクラスマッチで特に凄まじかったサッカー班へインタビューを行ったという、実績のある1年生だ。


「あなたが遅刻なんて珍しいわね。補習でもあったの?」

「いえ、補習は来週あります!それより部長、大ニュースですよ!!」


 よほど急いで走って来たのか肩で息をしている写漏は、補習の話は否定せずに部室の扉を閉めた。新聞部の部長はとりあえず予定表に『来週・補習で撮原欠席』とだけ書き込み、彼女へ目をやった。


「大ニュースって、何かあったの?」


 普段から元気のある写漏だが、今回はさらに慌てた様子だった。自然と部員たちの会議は中断され、写漏へ視線が集まる。


「昨日の放課後、学校の運動場ですごい事があったんですよ!誰も見てませんか?」

「木曜は部活休養日だから、皆帰ってたと思うわよ」


 部長の言葉に俺も私もと頷く部員たち。


「そうでしたか……じゃあ私が新聞部唯一の目撃者という事ですね」

「何があったんだよ撮原、もったいぶらずに教えてくれよ」

「そう焦らず!今写真を出します」


 副部長の言葉を受け、写漏はガサゴソと鞄を漁ってクリアファイルを取り出した。その中に入っている数枚の写真を机に並べる。


「この写真を現像するために職員室のプリンターをお借りしていたので遅れちゃいました。これは昨日の放課後、運動場で撮れた写真です」

「何これ……ドローン?」


 写漏が取り出した写真の一枚目は、運動場の上空で飛行するドローンのような飛行物体が写されていた。しかし、ただのドローンの写真ではない。1機や2機などではなく、凄まじい数のドローンが写っているのだ。


「この写真内だけで15機は見えるわね」

「すげぇ、カラスの群れとかじゃなくてか」

「これ学校のドローン?」


 写真を取り囲んでその異様な光景に皆一様に驚いていた。そこで写漏は次の写真を指さす。そこにはドローンの下で集まる数人の生徒の姿があった。


「次にこれは、そのドローンの下に集まっていた人達を撮った写真です。3階の教室から急いで摂ったのでピントが合ってないのは申し訳ないですが」

「何で急いてたの?」

「補習中に撮った写真ですから。先生に怒られながらなんとか数枚撮影できました!」

「真面目に補習しなさいよ。新聞部員としてはナイスだけれど」


 ドヤ顔でブイサインを作る写漏をジト目でたしなめる部長。残りの写真はドローンと数名の生徒を同じ枠に収めようと撮った写真で、どれもブレていたがそれなりに読み解ける情報もあった。


「これ、生徒会長よね?他の人は知らないけれど……生徒会のメンバーかしら」


 部長はドローンに囲まれている生徒の中にいる少女を指す。さすがに生徒会長の顔は誰でも知っている。部長としての集まりで顔を合わせる事もあるので尚更だ。

 彼女の他にも数名の生徒がドローンに囲まれるように固まっていたが、角度の問題でハッキリと顔が見える人は少なかった。


「この中にこのドローン軍団の操縦者がいるって事か。そんならなかなかの記事になりそうだな」

「ああ。インパクトは十分だしな」

「いや、実はそうじゃないんですよ先輩方」


 ドローン軍団の謎について調べようと意見がまとまりかけた空気に、写漏は待ったをかける。


「どうした撮原、まだ何かあるのか」

「ええ、ここからが本題ですよ!実はですね、ドローンたちが飛ばされる少し前に、ある男子生徒の放送が聞こえて来たんです」

「放送……?」

「どなたかは分かりませんでしたが、いつも聞いてる放送委員の方の声ではない事は分かりました。そして……」


 写漏がクリアファイルから取り出した最後の紙、写真ではなかった。それはメモ帳を千切ったような小さな紙切れだった。そこにはやはり補習中に書いたのだろう、やや汚い字で走り書きされたいくつかの単語が記されていた。


 エレメンツ。

 生徒会長を引き渡せ。

 最終兵器。

 力尽くで。


「な、何だコレ……」


 謎解きゲームのヒントのような断片的な単語に、皆は眉をひそめる。一つ一つのワードがあまりにも不穏なためである。


「どうです!?この壮大なバックストーリーが隠れていそうな一連の出来事!最高のネタではありませんか!?」


 高校生活に似つかわしくない臭いを孕んだこの案件に、写漏は乗り気だった。自分自身でそのネタを収取できた事も大きいだろう。


 謎のドローン軍団、生徒会長が絡む謎の事件、そして何より放送から聞こえたエレメンツという謎の言葉。個人名なのか集団なのかすら分からない謎の名前。

 新聞部の血が騒ぐ『謎』だらけだ。


「……確かに、この案件は興味深いわね。捨てるにはあまりにも惜しいビッグニュースの予感がするわ」


 話し合いで決めるとはいえ、最終的な決定権を持つのは新聞部の部長。皆が固唾を飲んで視線を送る中、彼女は言葉をつづけた。


「けれど、きっと一筋縄ではいかない。そんな予感もぬぐえないわ。もしかしたら私たちはこの学校の深い闇に足を踏み入れてしまっているのかもしれない」

「では、どうしますか……?」

「撮原」

「は、はい!」


 部長は写漏の目を真っ直ぐ見つめた。緊張のあまり思わず背筋がピンと伸びる。


「あなたを本案件の担当取材者に任命するわ。関係者や目撃者に取材をして、詳細を突き止めなさい」

「ほ、本当に私でいいんですか!?」

「戦場と化したクラスマッチを見事取材してみせた実力と実績があなたにはある。それはもう、信頼に足るものがね」


 部長はにっこりと微笑んだ。部長としての威厳を残しつつも、部員の皆に慕われる優しさを持つ、トップに立つ者の笑みだった。


「もしかしたら危険な仕事かもしれない。けれど、最高の学校新聞を作るためにも、頑張って」

「はい!!任せてください!!」


 やる気は十分、実力も十二分。

 1年生にして部の裏では金の卵と密かに称される新聞記者、撮原写漏は元気よく返事を返したのだった。

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