第96話 誰一人として知る者はいない
冬に差し掛かる冷たい空気と、それを和らげる暖かな日差し。絶好のお出かけ日和な今日この頃。
「遊園地キター!」
「さすが開設したばかりのエデンパーク、凄い人の数ですね」
「ここが人間の娯楽施設か……人口密度高すぎるがホントに娯楽になんのか?」
「ひと多い」
「ちょいとみなさん、人の数以外に感想ないんですか?」
波流星の他にはザウマスと
入場する前から見える巨大なアトラクション群に一人テンションが上がっている波流星だが、他3人の第一の感想は人の多さだった。
「私も来てよかったの?今更聞くのも遅いけど」
「福引で当てた無料券が二枚組でしたからね。それに、さすがに一人で留守番させるわけにもいきませんし」
「そうですよ。私もイディーちゃんに会いたかったですし!」
この中ではイディー以外は皆同じ所で働いているアルバイターだ。よそ者が混じってしまうのはいかがなものかと柄にもなく心配していたイディーだが、それも杞憂だったようだ。特に波流星は喜んでいる。
「ザウマスさんからよく話は聞いてますよー。いやはや、聞いてた以上に可愛いですねぇ」
「不審者みたい。でもお目が高い」
「あまり甘やかさないでくださいよ波流星さん。彼女調子に乗りますので」
分かりやすくドヤ顔をするイディーと彼女の頭を撫でて可愛がる波流星。お互いの身長的に中学生の妹を甘やかす大学生の姉みたいな構図になっていた。
と言うのも全体的に他所から見れば全員、歳の離れた4人きょうだいにも見える。まさかこの中で地球生まれの人間が一人もいないなんて誰一人として思わないだろう。
「そう言えばイディー、いつの間にか普通に日本語話せてますね」
「めちゃくちゃ勉強した」
「あれ、イディーちゃんはザウマスさんみたいに不思議パワーで翻訳とか出来ないんですか?」
ザウマスやイディーが異世界で行使していた『聖術』と呼ばれるものに必要なエネルギーが聖心力だ。それを使って知らない言葉を翻訳したり喋ったりする能力をザウマスは最初から身に着けていたが、イディーは使えなかったのだ。少なくとも、この世界に来たばかりの頃は。
「
「ああ、勉強したってそっちですか。最初のうちは国語辞典を使って勉強してましたけど、そっちはどうなったんですか?」
「日本語は難しすぎる」
「諦めないでくさだい」
あまりに潔いやめました宣言に思わず突っ込むザウマス。
イディーは聖心力を使う翻訳の方が近道だと理解してしまったらしい。
「人間は大変だなァ。努力しねぇと力が付かないなんて」
「今の地影さんはほとんど人間ですよね?」
「まぁな。だから努力を積むなんざ初めてだったよ」
うんざりしたような顔でそう愚痴っぽくこぼす地影だが、彼が彼なりに頑張っている事は先輩として見守っているザウマスと波流星はよく知っている。年齢はさほど離れていないが、子の成長を見守る親のような温かい目で地影を見ていた。
「まあまあ、立ち話はここまでにして早く入りましょうよ」
この4人の中で一番目を輝かせている波流星は、一旦話を切り上げて入場ゲートへと皆を先導していく。
福引で入手した無料チケットを入場ゲートで見せると、今日限りの専用パスポートを受け取れた。これは園内の全てのアトラクションが無料で利用できるだけでなく、指定されたものに限るが飲食物の売店も無料で利用できるすごいパスポートらしい。
「なんでこんなすげぇ無料券が商店街の福引なんかで貰えんだ?」
「あの日の福引は商店街の50周年記念だったんですよ。ハズレとされるトイレットペーパーなどもいつもの1.5倍だったらしいです」
「それでザウマスさん、珍しく商店街で買い物してたんですね」
その情報を小耳に挟み、あの日ザウマスは商店街に来ていたのだ。結局当たったのは目当てのトイレットペーパーではなく一等のエデンパーク無料券なのだが、そのおかげでみんなでここにいるのだと思えば大当たりだろう。
「おお……!ここが遊園地!」
ゲートをくぐって敷地内へと足を踏み入れた先頭の波流星は、辺り一面に広がる広大な土地とそこに並ぶ数々のアトラクションに感嘆の声をもらす。その景色だけでも感動しているようだ。
「こんな場所、前の世界には無かった」
「ですね。地球人の技術力は素晴らしいものです」
「全部回ってみてぇなこれ」
イディーやザウマスや地影、皆一様にして初めて来た遊園地に驚いていた。特にザウマスやイディーのいた異世界は文明レベルは日本よりも低く、このような大きな施設自体珍しい物なのだ。
異世界、異星、魔界。それぞれ違う場所から来た4人だからこそ、その衝撃もひとしおだった。
「で、おすすめとか定番とかってあったりするのでしょうか?」
そんな波流星の一言で、思わず全員が押し黙った。
それもそのはず、ここにいる者全員が遊園地初見。遊園地における定番など誰一人として知る訳がなかったのである。
少し話し合った結果、入口にあったパンフレットを取って、その中で気になる物を選ぶ方針にした。
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