第93話 償いの暴力装置
「……って事があったんだよ。いやーあれは大変だったね」
「それはすごいですね……。
「大丈夫だって。マキやいろんな人のおかげで傷一つないからさ」
生徒会と《
「それで、文化祭はどうなったんですか?」
「あー、先生たちが今年はしないって方向で話を進めてたらしくて、結局今年は駄目なんだって。文化祭は来年からかな」
そこは大人の事情というやつだろう。争う目的がなくなった《
「まあ、残念だけどしょうがないね。《
「来年の楽しみが一つ増えたと思えばいいですね」
「だねー」
一連の事件は、不幸に不幸が重なって起こってしまったようなもの。実害を及ぼしたのは《
「それはそうと人美さん、本当に怪我とかは無いですか?もし人美さんに危害を加えた方がいらっしゃると言うのならば、私が代わりに粛清を……」
「いや怖いよ!」
首に下げた金色の十字架を握りながら、あくまで笑顔のまま一愛は言う。友人の為ならば行き過ぎた暴挙にも出てしまいそうな過激派はここにもいたのだった。
* * *
場所は変わって、校舎裏庭のすみっこ。もうすぐ授業が始まるにも関わらず、一向に移動する気配のない不良たちがいた。
大声でゲラゲラと笑い、時折通り過ぎる生徒にはガンを飛ばす。典型的なタイプのヤンキーだった。
「だから俺はそう言ってやった訳よ。したらアイツ、ビビッて逃げやがったぜ!」
「ガハハハハッ!傑作だなオイ!」
まさに迷惑の権化たるその集団のそばを、他の生徒達は視線を合わすまいと顔を下にして歩き去る。こういう者はどこにでも一定数いるものだ。それは皆が知っている。
「ちょっと君たち、そのうるさい声は耳障りなんじゃないかな」
そして、そんな奴らを取り締まる者がいる事も、皆が知っている。
「あ、誰だテメェら」
あからさまに機嫌が悪そうな不良の一人が顔を向ける、そこには二人の男子生徒が立っていた。2人とも体つきも身長も目立つ訳でもない、どこにでもいそうな普通の生徒だ。
「生徒会の資料によればこの学校の不良は
「は?テメェら誰だっつってんだよ」
「いきなり現れて好き勝手言いやがって」
不良達はぞろぞろと立ち上がって男子生徒に詰め寄る。一方彼は臆するどころか微動だにせず、その後ろの少年もにっこりしてるだけだ。
「君たちに対する苦情が山積みでね。悪いけど問答無用で連行だ」
不良達へ向けてさらさらと言葉を並べる少年は、ポケットから円筒状の黒い物体を取り出し、先端についているピンを外して地面へ放った。
「あ?」
「何だコレ」
地面を転がる物体へ視線を向けた不良達。
次の瞬間、爆発したような閃光と耳をつんざく音が物体から炸裂した。
「ぐぎゃああああ!!目がぁぁぁぁ!!」
「耳いてぇよおおおお!!」
「
目や耳を押さえて地面を転がり回る不良達を見下ろしながら、男子生徒の一人、
「まあ、今は何も聞えないだろうけど」
「じゃあ、縛らせてもらうね」
比呂士の後ろから出て来たもう一人の少年、
「悪いね友理、久しぶりに学校通えるようになったのに、こんな雑務やらせちゃって」
「いいよいいよ。これも学校生活の一部だし、僕楽しいよ?」
「そうか」
比呂士は地面に転がる不良を縛る友理を見て申し訳なさそうに、そして少し嬉しそうにそう言った。1年間も会えなかった友人と一緒にいるのだから、例えそれが校内の治安維持活動中だとしても、嬉しくなってしまうというものだ。
友理が縛り終わった不良達は持ってきた台車に乗せ、生徒指導室へ連行していく。
「て、テメェら何もんだよ……」
荷物のように運ばれる中、不良の一人が呻きながらそうこぼした。荷台を押して歩く比呂士は彼らを見下ろし、今日から名乗る事になった新たな肩書を告げた。一連の騒動の償いとして、生徒会長から受けた役割だ。
「生徒会直属の校内治安維持部隊 《
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