第92話 争いの種は静かに消える
制服を着た一人の男子生徒が、運動場へと足を運んだ。そして、まるでそれが引き金になったかのように、
ドローンの数が数なだけに、手動で動かしているとは考えにくい。つまり自動操縦な訳だが、動きを止めたという事は放送室にいる
「一体なぜ……?」
「たぶん、彼が関係してるんだと思います」
次々と地面に降り立ち動かなくなるドローンを見渡す得夢へ、生徒会長がそう語った。
「彼は
「《
「ええ。先生方の話だと彼は体が弱いらしく、去年の冬から自宅で通信授業を受けてるそうです」
さすがは学校運営の一部に携わる生徒会長。生徒の情報はバッチリ頭に入っているようだ。
「《
「敵意は無いようですけど。むしろ戸惑ってるですね」
「……ちょっと待て生徒会長。今なんて言った?」
さっきまでとは違う。
スピーカーから聞こえていた比呂士の声は、気づけば肉声に変わっていた。校舎から出てこちらに近づいて来る彼は、堂々としていた先ほどまでとは違いかなり動揺しているように見える。
「あいつが通信授業だって?去年の冬から?何言ってるんだ」
近づいて来る比呂士から生徒会長をかばうように
「本当ですよ。少なくとも先生方がそう言っていたので」
「……っ!!」
何か衝撃の事実でも発覚したのか、比呂士は息を呑んで固まった。態度が急変した彼に生徒会長や人美たちは不思議そうに、得夢は不審な目で見ている。
「あっ、比呂士!久しぶり!」
薄いトートバッグだけを持って学校にやって来た友理は、手を振って比呂士のもとへ走り寄った。
「一年ぶりだね!元気してた?」
「友理……お前……」
去年の冬から学校に来ず自宅で通信授業を受けていたらしい彼は比呂士とは1年もの間会ってなかったのだろう。友理の方は純粋に1年ぶりの再会を喜んでいるようだが、比呂士の方はさっきから言葉が途切れている。
「あれ、どうしたの?僕がいない間に何かあった?」
「いや、お前こそ何が……え……??」
様子のおかしい比呂士を見て友理は首をかしげ、比呂士の方も理由は分からないがさっきから驚いたまま動かない。
「はぁ……ちょっと待て」
見かねた得夢はため息と共に、向かい合ったままお互いに困惑する比呂士と友理の肩を掴んだ。そしてもう戦いを続ける気は無くなってそうな比呂士へ呼びかける。
「事件の首謀者が俺たちを置いてけぼりにするな。戦う気が無いなら、とりあえずお前ら全員、生徒会室で事情聴取だ」
* * *
「僕たち《
友理と並んで生徒会長と得夢に向かいあう形で座っている比呂士は、初めにそう切り出した。生徒会側の後ろでは人美と
「生徒会と敵対するようになったきっかけは、去年の秋。文化祭の日だ」
「去年の文化祭……何かありましたっけ」
生徒会長はそう首を傾ける。彼女は去年もこの学校にいたし文化祭にも参加していたのだが、目立った出来事は何も無かったように思える。そんな彼女の問いに、比呂士は頭を横に振った。
「別に大きな騒動があった訳じゃない。俺たちと他の生徒とでちょっとした言い争いがあっただけだ」
「言い争い?」
「相手は同じ学年のヤンキー共なんだが、あいつらが友理の事を馬鹿にしてね。ついカッとなってぶん殴った」
「口喧嘩かと思ったら物理攻撃に出てんじゃねえか」
得夢は呆れたようにそう漏らすが、比呂士は表情を一切変えず、悪びれた様子もない。
「最終的には一緒にいた
比呂士にとって友理はそれほど大切な友人なのだろう。ちょっと口が悪くなっている。
「そしてその日はそれ以上何もなく終わったんだけど……次の日から、友理が学校に来なくなったんだ。僕はあの腐れヤンキー共の言葉に気を悪くして不登校になってしまったんだとばかり思っていた。だが……」
「だけど実際悪くなっていたのは体調の方で、僕はただ病院に運ばれただけだよ」
友理は得夢たちだけでなく隣の比呂士にも説明するようにそう言った。病院送りになった事を『だけ』と言い切る辺り、彼にとっては慣れっこなのだろうか。
「たまたまタイミングが重なってただけで、お医者さんに止められてなければ学校にも普通に行くつもりだったんだよ?」
「でも、電話に出なかったじゃないか、今日まで1度も。それくらい病んでいたのかと」
「あはは……それについては謝るよ。実はこの1年で3回も携帯が壊れてて、たぶんそれで出れなかったんだと思う」
申し訳なさそうに言い出す友理が差し出したのは、画面が粉々に粉砕されたスマートフォン。
「そしてこれが4回目、さっき歩いてる時に壊れたんだ」
「うわっ、バッキバキじゃん」
「これじゃあ電話はおろか電源すら点かないでしょうね……」
可愛そうな姿となったスマホを見て驚く人美と真季那。友理は不運にも携帯が何度も壊れ、タイミングが悪く比呂士の電話にも出れず。そのせいで不登校となってしまったと勘違いされていたようだ。
「まあ、そんな状態になった友人が何の前触れもなく平然と学校に現れたら、そりゃあんな混乱するよな」
納得がいったように得夢は頷いた。友理本人も、自分がそんな風に思われていたとは知らなかったので、そこそこ驚いていた。
「えっと、話を戻しますね。それではなぜ《
「ああ。簡潔に言うと、友理が不登校になった原因は文化祭にあると考えた僕たちが生徒会に文化祭の廃止を要求したんだ。文化祭が無くなれば、友理がまた学校に来てくれると思ったから。まあもちろん却下だけどね。それで何度も何度も抗議のために出向いていたうちに、いつしか武力で交渉するようになっていた、って訳」
要するに、ただのとばっちりである。
「悪いのは文化祭じゃなくてその不良生徒たちだろ」
「それはもちろんだ。実際そのゴミ袋共には《
「お前らが一番のヤンキーじゃねえか……!!」
「あんな汚れと一緒にしないでくれるかな」
すかさず突っ込む得夢と相変わらず不良たちへの呼称が酷い比呂士。話をはやく終わらせたかった真季那は2人に割って入った。
「要するにあなたたち《
「あ、ああ。その通りだ」
「それで、どうしますか会長」
得夢が聞いているのはもちろん、比呂士たち《
彼らの行動原理だった友理は不登校でも何でも無いと分かった今、彼らに生徒会と戦う理由など無くなった。しかしこれまでの衝突によって生まれた物的被害や生徒会全員の仕事の遅れは無視できるものでは無いのも事実。
生徒会と《
皆が静かに見守る中、視線を集める生徒会長は口を開いた。
「それじゃあ、こういうのはどうでしょう」
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