第90話 音もなく、真っ白に
「特殊ホヘー部隊?イレイザー?何それ」
「いえ、私に聞かれましても……」
そんな彼女達をよそに、
「私が殺せなかった唯一の人間が、この程度の相手に苦戦してるとはどういう事です」
「この程度って言われた!!」
いきなり謎の少女が現れて蚊帳の外になっていた
「私を圧倒してみせた3年前の実力はどこやったんです?あなたに限って力が衰えるなんてそうそう無いはずですが?」
「今は込み入った事情があるんだ。その話は今じゃなきゃ駄目か?」
「事情ですか」
「ああ」
「……分かりました」
あれだけ突っかかっておいてあっさり引き下がるものだから、逆に分からなくなってくる。何を考えているかさっぱり読めない彼女を訝し気に見据える得夢に、彩芽は何ともないような口調で返した。
「まあ、実は全部知ってるんですけどね。あなたが生徒会長さんを守るために戦ってる事も、そのせいで実力が出せずにいた事も」
「おい。じゃあ今の神妙な空気は何だったんだ」
「ちょっとからかっただけです。3年前に殺し合った以来の再会ですし」
「……本当に、何考えてんのか分かんねぇ」
ドッキリ大成功、とでも言うように真顔でブイサインを作る彩芽に、得夢は盛大なため息をつく他なかった。
「『イレイザー』の任務内容に要人警護はありませんでしたからね。生徒会長さんを守るために、それも一人で戦う事の難しさは想像に難くないですよ」
「お前は俺を攻めに来たのかフォローに来たのかどっちなんだよ……」
「両方ですよ。殺せなかった元ターゲットにいじわるを兼ねて挨拶でもと」
「性格悪いな……」
3年前、特殊歩兵部隊『イレイザー』の隊員『ホワイト』を殺して欲しいという依頼が彩芽のもとに来たのがきっかけだった。彩芽は1対1で得夢と戦い、そして負けた。後に依頼者が『イレイザー』に殺されたりいろいろあって彩芽への具体的な処分は無かったものの、彩芽は唯一殺せなかった彼の事をずっと覚えていた。
だからと言って任務中でもない今、彼と殺し合いを始めようとはちっとも思っちゃいない。彩芽は本当に、ちょっとからかって挨拶をしに来ただけだ。
いや、強いて言うならもう一つ。
「どうやら生徒会と一緒に私の友人たちまで襲われてるそうですので、加勢しに来ました」
「お前の友達だったのか……。危険な事に自分から飛び込んだり機械人間だったり、殺し屋の周りには変わり者が集まるのか」
「トンデモ厨二集団に突っかかられる歩兵部隊員に言われたくないです」
軽口を叩き合いながらも、2人は並んで風穂へと向き直る。得夢は銃を捨てて近接戦闘の構えを取り、彩芽はポケットから豆粒サイズの鉄球を取り出した。殺し屋と特殊部隊員の表情変わらないコンビが、タッグを組んだ瞬間であった。
「何でか知らない間に私の敵増えてる……けど、やる事は変わらない!」
さっきまで部外者のごとく置いてけぼりだった風穂だが、切り替えの早いことにさっそくカプセル爆弾を持ち直していた。
「あなた達を倒して生徒会長を確保する!それが私の目的!!」
大きな声で元気よく爆弾を投げる。2人まとめて吹き飛ばすコースだったが、直後に進路が変更された。何かに弾かれた爆弾はあらぬ方向へ飛んでいき、爆発した。ちょうど彩芽がやって来た直前と同じように。
「まさかあの時、爆弾が弾かれたのって―――」
「ええ、私です」
直後、黒煙を突き破って物凄い速度の何かが立て続けに飛来し、風穂の持つスポーツバッグの肩紐を数撃で貫いた。支えを失ったバッグは地面に落ち、中身をばらまいてしまった。
「ああっ、私の爆弾たちが!」
攻撃の主は、風穂へ右腕を突き出している彩芽。コイントスの構えを前向きにしたように、親指を拳で握り込んでいた。
「指弾か。やっぱり早いな」
「それはどうも」
コイントスならコインが乗っている位置には豆粒みたいな鉄球があり、彩芽はそれを親指の力で弾いたのだ。音もなくノーモーションで放たれた攻撃は、気付いた時にはすでに着弾していた。
あっという間に相手の武器を封じた彩芽へ驚きを見せながらも、得夢は彼女の作った隙を活かして地面を蹴る。目指すは、地面をコロコロと転がる爆弾を一生懸命拾い始めた風穂。
「わっ、はや!」
「大人しくしてろ……!」
爆弾たちを大事そうに抱える風穂の両手を右手で払い除け、そのまま軽やかに後ろへ回り込み、両手を掴んで拘束した。逃亡犯を捕まえる警官のような鮮やかな動きは、さすが特殊部隊の所属と言ったところか。
「すごっ、もう終わっちゃったよ」
「二人共、大丈夫ですか!?」
確保用の強力なテープで風穂の両手を後ろ手に縛った所で、離れた所で戦いを見ていた人美と生徒会長がこちらに走って来た。
「問題ありません。武器も回収しました」
「私の爆弾ちゃん!!」
ちらばったカプセル爆弾は全てスポーツバッグに詰め直し、得夢はバッグを風穂から遠ざけた。
「で、これで終わりではないんですよね」
「ああ。まだリーダーが残ってる」
電気使いの
そして炎使いの風穂はここで無力化した。となると、最後に残るのは《
「光使いの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます