第87話 3度目の邂逅
ひとまず3階の生徒会室から外へ出る事に成功した
「よし、ここを曲がれば運動場に―――」
アサルトライフルのモデルガン(?)を握りしめた
「残念だけど、ここは行き止まりよ」
色とりどりの水爆弾を腰に下げている女子生徒が、こちらを見据えて立ちふさがっていたのだ。彼女に見覚えがあった人美は恐る恐る尋ねてみる。
「先輩は確か、水使い……だっけ?」
「久しぶりね、クラスマッチ以来かしら」
彼女は《水使いの
「結局1度も勝てた事ないんだよね……」
「人美ちゃん、あなた結構 《
「あはは、まあ少し」
生徒会長の意外そうな声に苦笑いで返す人美。関りがあると言っても最近は会っていなかったので、こうして話すのは久しぶりである。今がこんな状況じゃなければお茶を飲みながらゆっくり話でもしたい所だが、残念ながらそうはいかない。
「私たちにも目的があるからね、悪いけど逃がさないわよ」
「逃げきれないなら、ここで迎撃するだけだ」
「そっちは3人いるみたいだけど、戦えるのは護衛のあなただけみたいね。それなら私にも―――」
火野が何かを言い終わる前に、遮るように銃声が連続して炸裂した。得夢の持つアサルトライフルから放たれた弾丸は火野が腰にたくさん下げている水爆弾を余すことなく全て撃ち抜き、破裂した水爆弾の直撃を食らって火野はびしょ濡れになった。
「ちょ、ちょっと!まだ喋ってる途中!」
「ここは戦場だ。少なくともお前達が戦場にした。情けをかける義理などない」
「ぐぬぬ……」
得夢の冷徹な眼差しを受けて悔しそうに拳を握りしめる火野。不意打ちで武器を失った彼女は反撃することも出来なくなっていた。
「ねえそれよりさ、今撃ったよね?やっぱりそれ本物??」
「訓練用の非殺傷ゴム弾だ」
「ほんとに?実は本物なんじゃ?」
「しつこいな……」
隣の人美から向けられる訝し気な視線を無視し、得夢は銃口を火野へ向ける。武器が無くなったとはいえ、容赦はしないようだ。
「なるほどね……こんなに早く奥の手を使う事になるとはね!!」
火野は懐から小さな機械を取り出し、表面に一つあるボタンを自信満々の笑みと共に押した。
「うわっ!!」
その直後、人美たちを囲むように地面から霧が噴出し、3人の視界は真っ白に包まれた。
「こんな事もあろうかと、地面に改造した噴霧器を埋めておいたのよ!この隙に撤退させてもらうわ!」
「まずい!逃げられちゃいますよ!」
「させるものか!」
立ち込める霧の中、得夢は先ほどまで火野のいた方向へ銃口を向ける。しかし前が見えないため今はどこにいるのかも分からない。そう思い、引き金を引くのが一瞬遅れた。
「騒がしいぞお前らー!!」
一瞬遅れたおかげで、彼は当たりもしない弾丸を撃たずに済んだ。
左側にある校舎の方から響いた叫び声。それと同時に吹き荒れた突風によって、視界を奪っていた霧が全て吹き飛んだからだ。
「そんな!?」
一生懸命準備した目くらましが一撃で無効化された事にショックを受けた火野は、逃げ出す姿勢のまま固まっていた。
「まったく、部活中だというのに部室のすぐそばで騒ぐんじゃない」
「あ、マオー先輩じゃん」
開け放たれた窓の外から顔を出している彼女は、元異世界の魔王にして魔法研究部部長の
「おお人美じゃないか、久しぶりだな。こんな所で何をしているんだ?そこの2人は生徒会だろう」
「先輩いい所に!実はですね、かくかくしかじかで危険な人達に狙われていまして……」
「ほう、何か面白そうだな」
「こっちはちっとも面白くない」
生徒会長を守る事に全力な得夢は厳しい目で摩音をねめつけるが、摩音は素知らぬ顔で部室の中へ振り返った。
「
「残念だけど本音隠しきれてないよ」
部室の奥から聞こえた少年の声は、副部長の
「とうっ!!」
掛け声と共に彼女の姿は部室の中から掻き消え、次の瞬間には火野と向き合う形で人美たちの前に現れていた。靴を履き替えずに転移してきたので上履きのままだが、風魔法でほんの少し浮いているので汚れてはいない。
「くっ……」
劣勢だと一瞬で理解した火野は後ずさりながら思わず腰に手をやるが、装備していた水爆弾は得夢によって破壊されたばかり。彼女に抵抗手段は残っていなかった。
「お得意の水は品切れか?なら少し分けてやろう」
摩音は不敵な笑みを浮かべて右手を掲げると、右手を中心に魔法陣が瞬き、直後には頭上に直径5メートル大の水球が出現していた。
「ちょ、これはヤバイ……!!」
「この魔王が本物の水属性魔法を見せてやる」
それはさながら流星群のように。巨大な水球から無数の水の弾丸が発射され、背を向けて逃げ去る火野を追うように地面へと降り注ぐ。
「ちょっと!魔法は反則でしょー!!」
「ふははははは!!口答えは反撃の一つでもしてから言うがいい!!」
完全にスイッチが入ってしまった摩音は魔王らしく不気味に笑いながら、辺り一面を水浸しにしていく。その様子を呆然と眺めていた人美たちに、窓の向こうから唯羽が声をかけた。
「水属性の彼女以外にも追っ手はいるんだろう?ここは摩音に任せて、行くといいよ」
「それはありがたいですけど……大丈夫なんですか、マオー先輩」
「まあ、言う事聞かなくなったら無理矢理止めるから」
いつもの事だよ、と諦めたように笑う唯羽。あらゆる魔法を打ち消す聖剣の力を持つ彼がそばで見ているというなら、この場は摩音に任せていいだろう。
「お2人ともありがとうございまーす!」
礼を述べながら走り去る人美を先頭にして、3人はようやく運動場へと辿り着いた。
開けたここでなら、《
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