第78話 心も体も服も綺麗に
「ふふふ、いい買い物しちゃったなー」
街一番の大型ショッピングセンターのゲーム売り場から、
今日だって本当は漫画を買いに来たのだがお目当ての品が売っておらず、暇つぶしにとゲームコーナーへ寄っただけなのだ。完全に計画性のない衝動買いである。
「まあ、思わぬ収穫と思えばいいもんねー」
誰に対するでもない言い訳めいた事を呟きながら、帰ろうと歩き出した人美。
「……おや?」
出口のある下の階に降りようとエスカレーターに乗った所で、ふと見慣れた人影が視界の端にちらりと移った。人美がさっきまでいた階に、2人の友人の姿が見えたのだ。人美は周囲に誰もいないか確認した後、ちょうど半分の位置に差し掛かっていたエスカレーターを逆走して、元の階に戻って来た。よいこはまねしてはいけない。
「やっぱり、サキとエンちゃんだ」
友人の姿を追って人美が入ったのは洗剤売り場。そこにいたのは、死神のエンデと超能力者の
「やっほー人美ちゃん、来てたんだ」
「ちょうど帰る所だったんだけど、エンちゃんの白い髪が目に留まってね」
死神であるエンデの容姿は、長い白髪に赤眼と随分目立つ。遠くから見てもすぐに分かった。
「それはそうと、珍しい組み合わせだね。洗剤買いにきたの?」
「ああ、アヤメのやつに頼まれてな。だけどオレには何がなんだかさっぱりだったんだよ。そこで偶然会ったサキノに相談してた所だ」
「私もそこまで詳しくは無いんだけどね」
謙遜するように苦笑を浮かべる才輝乃だが、人美は間違いなく自分よりは詳しいだろうな、と確信していた。彼女は家事をあまりしない人美とは違って家事においてオールマイティな家庭的JKなのだ。
「アヤのんからは何か言われてないの?コレ買って来てくれー、とか」
人美がアヤのんと呼んでいる少女、
「つい最近まで使ってた洗剤はあんまり臭いが落ちにくいらしくてな。良さそうな新しいやつを買って来てくれって言われたんだよ。無茶言ってくれるぜ」
「臭いって……あー、なるほどね」
殺し屋ともなれば、血とか火薬とかその他いろいろな臭いが服についたりするのだろう。さすがに消臭クリーニングなんかに出すわけにはいかないだろうし、それ相応の洗剤が必要になって来るわけだ。
「殺し屋さんも大変なんだね。私は怖くて出来ないけど」
「サキの超能力があれば、ポテチ食べながらでも一国の軍を潰せるよね」
「しないよそんな事!」
「それもう殺し屋とかいう次元じゃねえぞ。もはや歩く大量破壊兵器だな」
「エンデちゃんまでそう言う事言わないの!」
心優しき超能力少女は、そんな事にチカラを使ったりはしない。確かに人美の言う通り、作業の片手間で大陸の形を変えれそうではあるし、本人もやらないとは言っているが出来ないとは言わない辺り、それほどのチカラはあるのだろう。
エンデは人美の冗談に乗りながらも、才輝乃が悪人じゃなくてよかった、と神目線でしみじみ思った。死をつかさどる神として、そんなに死者が出たら仕事が増えてたまったものではない。
「人美ちゃんのせいで話がそれちゃったけど、とにかくエンデちゃんの洗剤を選ばなきゃ」
才輝乃は洗剤のいくつかを手に取りながら、それぞれを比べるように交互に見る。
「消臭効果のある洗剤もあるけど、バッチリ臭いを消したいなら消臭剤を買った方がいいかもね」
「なるほどな……。じゃあ一番良いのを買うか」
エンデは取りあえず、パッケージに『強力!』と書かれているものを一つ、カゴに入れた。随分と雑な決め方である。
「そう言えばアヤのんの家自体の臭いは大丈夫なの?服が臭うなら家も鉄分臭くなったりしないの?」
「ああ、それは大丈夫みたいだぜ。何でも、事故物件の臭い対策なんかに使われる業者用の死臭消臭剤とか使ってるらしいからな。同僚の人に譲ってもらったんだと」
「へ、へぇー」
軽い気持ちで聞いてみたが、結構ばっちり対策してるようだ。同僚の人と助け合うのは良い事なのだろうが、彩芽の場合は普通とは違った意味に聞こえなくも無い。きっと殺し屋さんの世界は複雑なのだろう。人美と才輝乃はあまり深く聞かない事にした。
その話はともかく、無事に洗剤を購入する事に成功したエンデ。せっかく集まったからと、三人は一緒にショッピングセンター内を散策する事にしたのだった。
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