第70話 不良とつるむ善良な後輩
「……無王先輩は来てないのか」
1年1組の
ここら一帯の不良の頂点である無王ともやしっ子男子高校生の空という組み合わせだと、どうしても不穏なイメージしか浮かばないものだが、2人は仲が良い。はじめて出会ったのは2学期が始まってからなのだが、それを感じさせないほどには打ち解けているのである。
そんな空は今日も屋上で寝転がりながらおしゃべりでもしようと思っていたのだが、今日は空が一番のようだ。
「いつもは俺がどれだけ早く来ても、無王先輩が待ってるんだがなぁ」
適当に腰を下ろしてそう呟く空。無王より速く屋上についたのは初めてだ。それでもじきに来るだろう、と考え、そのまま仰向けに寝ころんだ。夏から秋へと移っていくこの季節は、暑くもなく寒くも無くちょうどいい気温だ。
そんな快適空間でまどろんでいた空は、唐突に響いたチャイムの音で目覚めた。昼食を食べてすぐに屋上に来たのだが、今鳴ったのは予鈴だろう。どうやら昼休みの最後まで寝ていたようだ。
「無王先輩は来なかったな……」
のそりと起き上がって伸びをしながら独り言ちる。まあ彼にも彼の用事があるのだろう。一日くらい来ない日だってあるはずだ。
「あら、やっぱりここにいたのね」
そんな時、ふと扉の方から声が聞こえた。振り向くとそこには、短い茶髪の女生徒がこちらを見ていた。屋上にいるのは空だけなので、今のも空に向けた言葉なのだろう。空は彼女に見覚えがあった。
「あなたは確か……無王先輩が言っていた『やばい人』でしたっけ」
「何言ってくれてんのよアイツ……。私は
「どうも、殿炉異空です……」
何となく自己紹介をする空。刹華という彼女の名前は今知ったが、無王から話だけは聞いている。いつも期限の過ぎた提出物を早く出せと催促してくる学級委員長なのだとか。以前に一度だけ、無王を追いかけて屋上に来た事があったはずだ。
「前も言ったけどあなた、あんな不良に無理して付き合わなくてもいいのよ?アイツから聞いた感じ仲は良いみたいだけど」
「別に無理なんてしてませんよ。俺が来たいから来てるだけです」
「ふうん……まあ、そこについては特に私が言う事じゃないんだけど」
刹華は床に座ってる空を見下ろす形でそう言った。
「それとあなた、屋上は立ち入り禁止だって知ってる?鍵はいつの間にか壊れてたけど、本来ここは入っちゃダメなのよ?」
「知ってますよ。知ってて入りました」
「……何故?」
「そこに屋上があったから」
快適な睡眠場所を探し求める眠りの探求者空は、いたって真面目にそう返した。屋上で寝たら絶対気持ちいいだろうと思ったからここに来たのだ、と。
それを聞いて刹華は額に手をあててため息をついた。
「はぁー……これもアイツの影響なのかしら。だったら先輩として申し訳ない限りだわ……」
「いえそういうのじゃないですよ。無王先輩に会ったのは屋上に入ってからですし。屋上へは俺の意思で足を踏み入れました」
無王へのあらぬ誤解がかからないように、自分の意思による行動だとハッキリと宣言した。それが校則破りました発言でなければもう少し恰好が付いただろう。
「……あなたと無王の奴、案外似た者同士なのね」
「そうですかね」
半ば呆れたように言う刹華に、不思議そうに返す空。一見真面目そうな後輩が実は不良と似た者同士だという事を知って、刹華は類は友を呼ぶという言葉を思い出していた。
「それで地斬先輩、でしたっけ。俺に何か用ですか?」
「ああそうだった、話が逸れたわね」
気を取り直すように咳払いをして、刹華は話を始めた。
「実は今日、無王の奴が風邪で休みでね、プリントを届けなくちゃいけなくなったのよ。だけど私はあいつの家なんて知らない。だから無王と仲が良いっていうあなたに声をかけたの。もしかしたらあいつの家の場所を知ってるかもって」
「…………」
一通り説明した刹華だったが、空がジッと固まっている事に気づいて首をかしげた。
「どうしたの?」
「あの無王先輩が……風邪で休み……!?」
「……どうして誰も彼もがそんな未確認生物を見つけたみたいな反応するのよ」
『最強の不良』としての無王の話はあちこちから聞いていた空は、無王が同じニンゲンだという事を忘れたみたいに驚いていた。
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