第64話 悪しき魂をやっつけろ!

 多少のハプニングがあったものの、体育祭はつつがなく進行していった。

 異能の力の使用を禁じていたためその模様は他校の体育祭とあまり変わったものではなかったのだが、それでも生徒達は一生懸命競技に臨んだ。そして、全競技が終了した。


『それでは結果発表です!まず3年生の一位は……2組!二位は―――』


 実行委員長の放送によって結果発表が行われていく。生徒達は固唾を呑んで聞き入る者や、わりとどっちでもいいからと聞いてない者など様々だ。


「あーなんか緊張してきた。私達どうなるかな」

「精一杯やったのだし、あとは祈るばかりね。科学的ではないけれど」


 人美ひとみ真季那まきながそんな言葉を交わす中、ついに一年の番が回って来た。


『えーっと最後に一年ですが……なんと!3クラス同点です!順位が決まりません!』


「……え?」


 その言葉に、一年生のほぼ全員が固まった。


『計算間違いでは……うん、ないですね。同点です!さあどうなる!?』

『どうなるじゃないですよ。全クラス一位でしょう』

『えーそれじゃなんか味気なくない?』

『何か競技追加します?』

『今からか?遅くないかそれ』


 マイクの前で、実行委員会の人達が話し合っている。それを聞きながら、人美は苦笑を浮かべた。


「この学校って、わりとフリーダムだね……」

「はやく終わんないかなぁ」


 後ろではそらが眠そうにそう呟く。

 思わぬ時間が空き、生徒達の雑談の輪はあっという間に広がり、たちまちざわざわし出した。


 そしてその声に紛れて、一人の生徒が声を上げた。


「おい、なんだあれ」


 その生徒は体育館の屋根の上を指さしていた。その声を聞いた人美たちはつられて屋根の上を見る。

 そこには、牛とタコを合体させたような奇妙な異形の姿があった。上に乗られてる体育館が潰れないのが不思議なくらい巨大だった。


「うわ、きもちわる……」


 異形の化け物を見て第一声がこれである。人美はもはや非日常的な現象に慣れつつあった。

 思わず人美がそう呟くと、近くにいたやたらピンクな魔法少女が目を丸くした。


「あれは、『悪しき魂』!なんでこんな所に!!」

「足木魂?人名?」

「悪しき魂よ!人間の生命力を喰らって生きる化け物なの!」

「ほぇー。映画みたい」


 生徒達の興味は体育祭から悪しき魂とやらに完全に移り、皆ソレをみてざわざわが強くなった。

 それを敏感に察知した放送委員長は、静かにマイクを手に取った。


「委員長……?」

「良い事おもいついた」


 怪訝そうに声をかける副委員長をよそに、ボンボンとマイクを叩いて調子を確認した委員長は、声を張り上げてこう言った。


『ただいまより緊急競技を開始します!3クラス同点だった一年生は、先にあの化け物を駆除したクラスが優勝ということで!!あ、もちろん異能の力は解禁ですよー!ビシバシいっちゃってください!!』


 生徒達のざわめきに負けないくらいの声量で告げられた内容に、一年生一同ぽかんとしていた。


「そんな呑気な事言ってられないわよ!アイツは私が……!」


 観客席でそれを聞いていたマジカルオルクスは、大鎌を携えて運動場に走る。だが、


『あーそこのお嬢さん!これは生徒達の競技なので手出ししないでくださいねー!』

「そんな事言ってられないでしょ!そもそもあの悪しき魂を滅ぼすのが私たち魔法少女の役目―――」

『いやそういうの良いですから。座って座って』

「そういうのって何よ!!」


 憤慨するように声を張り上げるが、放送委員長は譲らない。何度かの言葉の応酬があった後、しぶしぶマジカルオルクスは引き下がった。


「ふんだ。別に他の誰かが綺麗に退治してくれるならいいけど。しくじって学校消し飛んでも知らないわよ」


 自分の仕事を体育祭の競技として利用されて、若干不機嫌なマジカルオルクス。そんな有識者の許可も下りた所で、いよいよ体育祭最後の競技が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る