第60話 真っ直ぐ卑怯に

 二年生と三年生のクラス対抗リレーが行われている中、次の種目である玉入れの作戦会議が、一組テント内で行われていた。


「玉入れは三学年三クラス同時に行われる競技だ。一位を目指すなら、それ相応の作戦が必要になってくる訳だが……」


 玉入れ参加者の一人である殿炉異とのろいそらは、同じ参加者のメンバーを見渡して言った。


「はっきり言おう。何も思いつかん」

「言っちゃいましたね……」


 堂々と頼りない事を宣言する空に苦笑するのは、いつも首から十字架をさげてる徒神とこう一愛いのりだ。彼女は神様の加護を得る事で様々な異能を行使する事が出来るのだが、それもこの体育祭ではルール上使えない。


「そして俺の呪術も同じ。呪術の使えない俺なんて、人より運動のできないもやしっ子……いや、ただのカカシだ」

「そこまで下げなくても」

「そして問題はそれだけじゃない」


 空は少し離れた場所にある、二組のテントへ視線を向ける。


「あっちには天使の翔がいるんだ。あいつは不可思議な能力なんて使わなくとも元々の身体能力がぶっ飛んでる。勝ち目は無い」


 天塚あまづかしょう

 人間をはるかに超えた存在である『天使』の彼は、体のつくりからまるで違うと言っていい。『天使の力』とやらを使わなくとも、素の状態で玉は百発百中だろう。


「でも、だからってやる前から諦めろって言うのか?」


 玉入れメンバーの男子生徒は、諦めきれないと言った風に反論する。そんな彼に向かって空は、首を横に振る。


「そうは言ってない。俺たちの役目は残ってる」


 一度言葉を切り、メンバー全員を再度見渡す。


「確かに俺たちが一位を取れる可能性はもはやゼロだが、別に全競技で優勝を取らないと総合優勝が取れないなんて訳じゃない。故に玉入れの優勝は逃してもいい」

「ん?じゃあ結局諦めるしかないんじゃ……」

「まあ待て、言いたい事はこれからだ。結論から言って、玉入れの優勝は諦める。しかし俺たちが競技中に出来る事は優勝めざして玉を投げるだけじゃないだろ?」


 そこで空は口元に笑みを浮かべた。ただしそれは朗らかな笑みとかそういうものではなく、彼にしては珍しい、悪だくみをしてる時の笑みだった。


「妨害だよ。一位確実の2組以外のチームを妨害すれば、必然的に俺たち1組が2位になれる。2位だって十分高得点だ」

「「「うわあ……」」」


 スポーツマンシップに真正面から喧嘩を売りに行くような空の発言に、チームメンバーみんなが呆れともドン引きともつかない声を漏らす。これも空なりに優勝を取りに行くための考えなのだが、卑怯なものは卑怯である。


「そもそも妨害しちゃだめなんてルールにないからな。たぶん」

「残念ですけど、ありますよ」


 短くそう返すのは、実行委員から拝借してきたルールブックに視線を注ぐ一愛だった。

 思わぬ返答に、空は一瞬間をおいて聞き返した。


「な、なんだって……?」

「妨害行為は禁止されてますよ」

「え……?」

「妨害を行ったチームは失格、さらに減点されるみたいです」

「え……」

「どうしますか?」

「…………」


 だんだんと語気が弱くなり、しまいには俯いて何も言えなくなってしまった空。やがて顔を上げ、ヤケクソ気味に拳を握った。


「こうなったら当たって砕け散れ作戦だ。投げまくるぞ……!」

「人にですか?」

「いや、カゴに」


 さすがに失格になってまで妨害をしようとは思わなかった。こうなれば正々堂々と戦って散る道を、空は選んだ。


 そして玉入れは始まり、やはり天使のいる1年2組の圧勝で終わった。

 悲しいくらい想像通りの結末に、空は虚無になっていたという。

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