白熱の体育祭 編
第59話 人間の速さ
体育祭。
走ったり跳んだりしてクラス間で競い合うそんな体育行事は、毎年夏に行われる。
「なのに『秋季運動会』っておかしくない?9月とかどう考えても夏じゃん」
一組を示す赤のハチマキを頭に巻きながら、
今日は朝からよく晴れている。まさに絶好の体育祭びよりだとか校長先生は言っていたが、夏の運動に最適な天気は『曇り』であると人美は主張したかった。
「まあどっちでもいいか。それより高校初めての体育祭だけど、なんか代わり映えしないね。想像通りって言うか」
「まあ、体育祭なんて大体の学校は同じようだし、気にしたら負けだと思うわよ」
隣の
テントが並んでいたり入退場門が設置されていたり。体育祭仕様になっている運動場は、他の学校ともさして変わらないものだろう。
『えー、実行委員からのお願いでーす。生徒の皆さんの中には、魔法だったり超能力だったり超常的なすごい力を持ってる人もいると思いますが、本体育祭ではそういう力は使用禁止の方向でお願いしまーす』
……ただ一つ、変わってるモノが。こんなアナウンスが流れる高校はここぐらいだろう。
「だってさ、サキ。超能力使っちゃダメだってさ」
「私は最初から使わないで走るつもりだもん。その為に毎朝ジョギングしたんだよ」
「気合い入ってるなぁ……」
超能力少女の
彼女は第一種目、クラス対抗リレーに出場するのだ。そしてそれは人美も同じなのだが……
「私は暑いし、ほどほどに走ろうかなー」
「駄目だよ人美ちゃん。みんな暑い中頑張ってるんだから」
「えぇー」
兵器にすらなりうるであろう太陽光を浴び、早くも汗が流れている人美は、うなだれた様子で返事をする。
そんなやる気があったり無かったりと様々な生徒の思惑が交差する体育祭が今、幕を開けた。
* * *
第一種目は、クラス対抗リレー。
放送席によってレーンごとの選手紹介が行われている中、トップバッターの才輝乃は赤いバトンを握りしめる。
(何度も練習したんだから、きっと大丈夫。いけるよ私……!)
選手は5人。それぞれの足の速さはもちろんバラつきがあるが、そこは頭脳班主導の下、計算された走順になっている。
足の速さが平均だった才輝乃の最低限の役割は、『良い感じの順位』で次につなぐ事。
(超能力が無くたって、私はやれるんだから!)
そしてついに、開始の合図が響き渡った。
『さあ選手一斉にスタート!早々トップに躍り出たのは、2組の霊能力者、
『「いざという時スポーツ選手の霊を憑依させた瞬間体がぶっ壊れないよう、最低限は鍛えているらしい」というコメントを彼女の友人という死神さんからいただきました』
『なるほどー、霊能力者も大変みたいですねー!』
放送委員の2人によって実況を解説が行われる中、選手は走る。
先頭は黄泉が走っており、その後ろを才輝乃が追っている。体育祭の最初の競技なのだから当然ではあるが、皆の体調は万全のようだった。疲れによってペースが落ちる、なんて事はまだなさそうだ。
『一位の黄泉選手に追いすがるのは、1組の超能力者、才輝乃選手!彼女の方も、能力無しでもなかなか速いです!』
と、ここで、才輝乃にとって予想外の事態が起こる。
『「超能力以外でもみんなの役に立ちたい」という思いを胸に、今日のために毎朝走っていたみたいですよ。ちなみにこのコメントは彼女の幼馴染さんからいただきました。選手のコメントを放送席に送るの、ブームなんでしょうかね』
『面白いのでどんどん送ってくださいねー!』
まさか自分の話まで出てくると思っていなかった才輝乃は恥ずかしさに顔を赤らめながらも、頑張って走り続ける。
頬の熱と顔を流れる汗を風で振り払うように走り続けて、ようやく半周が見えて来た。アンカー以外の選手は半周でバトンを交代するルールになっているため、才輝乃の出番もここまでだ。
「さいごに……もうひとがんばり!」
最後の力を振り絞って足を踏み出した才輝乃。
バトンの受け渡し区間に差し掛かる直前に、黄泉を追い越してトップに躍り出た。
「お願い!人美ちゃん!」
そうして、一組のバトンは人美に渡された。
「サキがあんなに頑張ってたんだ。私がここでサボるわけにはいかないよねっ!!」
才輝乃から受け継いだバトンを握りしめ、人美は今までにない全力でトップを走り抜ける―――
* * *
最終結果。
一位・2組。二位・1組。三位・3組
「2位だぁー!!くやしい!!」
競技が終わってベンチで一休みしている中、人美は心底悔しそうに叫んだ。面倒くさがりつつも、何だかんだ全力で挑んだからこそ味わえる悔しさである。
「まさか2組のアンカーがアヤのんだったとは……やっぱり最終兵器は直前まで秘匿されるものなんだね」
「人を戦略ミサイルか何かみたいに言わないでくださいです」
隣で人美に言葉を返すのは、アヤのんと呼ばれた2組の少女、
現役バリバリの殺し屋である彼女の足は、高校生はおろか、人間の出せる平均速度をはるかに上回るスピードだったのだ。これは一位を取られても仕方がない。
「異能力が使えないこの体育祭で、アヤのんは恐ろしい隠し玉だったわけだ……対策をしっかり講じないと、1組は壊滅しちゃうかもね……」
「だから人を大量破壊兵器みたいに言わないでほしいです」
もっとも、殺し屋業界の間では日本最強である彩芽は、冗談抜きで歩く戦略兵器みたいな扱いを受ける事もしばしばあるのだが、人美たちはそんな事は知らない。
「まあ負けちゃったけど、私は満足かも。全力で走るのって楽しいし」
爽やかにそう言うのは、さっきから足が痛くて動けてない才輝乃。今ベンチで休んでいるのは人美たちというよりも、むしろ彼女の方だった。
「超能力無しの状態で。まさに人間の足で走ったって感じだね、サキは」
「あはは、私だって普段から足で歩いてるよ」
痛む足をさすりながら人美にそう返す才輝乃の顔は、いつにも増して晴れやかな笑顔だった。
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