第58話 体育祭の準備

 9月下旬には体育祭がある。

 小学校中学校の時ほど見に来る人は多くないが、それでも多少は外部から人がくる行事である。


「なのでしっかりと綺麗に準備するように!」


 生徒会長の女子生徒がそう締めくくり、準備の説明を終えた。生徒会役員、体育委員、そして一年生全員で、手分けして作業にあたるらしい。


「俺たちはテント組み立て班か」


 天使ゆえに人間離れした腕力を持つ天塚あまづかしょうは、本来6人ほどの人数で連携して組み立てるはずの重たいテントを一人で組み立てている。


 完成したテントをその辺に置いておけば、機械ゆえに人間離れした腕力を持つ真季那まきながこちらも一人で持ち上げ、均等に並べていく。1ミリの誤差も無く均等に並べられるのは、まさしく機械のなせるわざである。


「翔、組み立てが雑だわ。時間はあるのだし、もう少しゆっくり確実に組み立ててくれないかしら」

「わりいわりい。気を付けるわ」


 と言いつつ天使パワーでちゃっちゃと組み立てられるテントからは雑さが消えていない。真季那はため息をこぼした。



「俺たちの仕事、なさそうだな」

「だね」


 一方、元からあまりやる気を感じられない雰囲気をまとっている殿炉異とのろいそらと、転入して来てから同級生の離れ業に毎度驚かされている三瀬川みつせがわ黄泉よみは、ぽつりと呟いた。


 空と黄泉をはじめとする真季那と翔以外のテント組み立て班の生徒たちは、人間ではない2人によって仕事が消えていく様を見ている以外にやる事が無いのだった。





     *     *     *





 場所は移って運動場の端。

 長机の上で、放送委員メンバーを中心に放送用の機材の調整を行っている所だった。


「こういう機械系の作業こそ、マキがやるべきだと思うんだけどなぁー」

「仕方ないよ、くじで決めたんだから」


 普通の人間である呼詠こよみ人美ひとみと超能力者の皆超みなこえ才輝乃さきのは、コンセントから延長コードを伸ばしたりマイクの調子を確かめたりしている。


「あーあー、マイクテストォォォォォ」

「遊ばないの」


 声をマイクに乗せて運動場中に変な声を響かせていた人美だったが、才輝乃の超能力によってブツリと中断されてしまった。マイクを見るとつい変な声を乗せたくなるのだから仕方ないのだ。



「皆超さん、このスピーカー壊れてるみたい。直せないかな?」

「あ、こっちもおねがーい」


 機材の不調を申し出る放送委員の生徒達が、才輝乃を呼んでいた。


「分かりました、やってみます!」


 彼女は超能力を駆使して、配線が千切れていたり基盤がひび割れていたりと、明らかに処分確定のような機械すらもあっという間に直してしまっていた。


「おおー、すごいね皆超さん。新品同然に直しちゃうんだもん」

「いえいえ、超能力が凄いだけですよ」


 先輩たちにわいわい囲まれて、才輝乃は照れくさそうに微笑んだ。


 一方、マイクをぶぉんぶぉん振り回して風の音を感じてた人美は、真面目な生徒会長さんに真面目に働きなさいと注意されていた。





     *     *     *





 体育館では、入場門と退場門の組み立てをしていた。あらかじめ運びやすいようバラバラに作っていた物を運び込んで、ここで組み立ててから運動所の指定の場所まで運び込むのだ。


「外ほどではないとはいえ、体育館の作業もなかなか暑いですね」


 金槌で釘を打つ気持ちいい音が響く中、首に金色の十字架を下げた徒神とこう一愛いのりは、作業用の軍手をはめた手の甲で額の汗をぬぐった。


「でも運動場では暑いなか人美さんも頑張っているはず。ならば私がここで弱音を吐くわけにはいきません……!!」


 その人美さんがまさかマイクで遊んで怒られているとは知らず、彼女を思う心を糧に一愛は金槌をふるい続ける。


「一愛頑張ってるじゃねえか。オレも負けてられねえな!」

「何を張り合ってるんですか」


 一生懸命に作業する一愛を見て対抗心を燃やす死神少女のエンデと、それを見てちくりと言葉を投げる殺し屋少女の美菜央みなお彩芽あやめ


「そんなに頑張るのなら是非とも私の分も頼みましたです、エンデさん」


 最近大きな仕事が続いてかれこれ4日ほど寝てない彩芽の握る金槌は、何もない場所を叩いたかと思ったら指ぎりぎりを通り過ぎていったりと、危なっかしい事この上なかった。


「彩芽さんは休んでいて構いませんよ。今日までの準備も頑張って手伝ってくださいましたし」

「そうだぜアヤメ。少しは休めよ」

「……ありがとうございます。そうさせてもらいますです」


 一愛とエンデにそう言われては、無理に手伝うと言い出すのも失礼だろう。休憩がてらちょっと眠ろうとした。


 だが、殺し屋としての本能がそうはさせない。


「……眠れないです」


 近くにいるのがエンデや一愛など友人たちだけなら眠る事もできただろうが (それでも熟睡と呼べるものは出来ないだろうが) 、普段話した事も無い生徒会や体育委員の先輩が近くにいる今、いくら寝ようとしても無意識に神経が目覚めてしまうのだ。無防備な体を不用意にさらさないと訓練された殺し屋さんの悲しき宿命だった。


「やっぱり手伝いますですよ。木材を押さえるくらいなら出来ます」

「大丈夫ですか?」


 一愛の心配そうな声に笑みを返しながらも、目元にはクマがくっきりと浮かんでいる彩芽。エンデと3人で協力しながら、任された仕事をこなしていった。




 そして30分ほどが過ぎた頃。

 各々の頑張りもあって、無事に体育祭の準備は完了したのだった。

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