第55話 あっちの魔法とこっちの魔法

「あー、今朝のニュース見た奴は知ってるだろうが、昨晩に白名井しらない市内で爆発事件があった。家がそこら辺の奴は気を付けるよーに」


 放課後前のホームルームで、二年二組担任の女性教員はほぼ棒読みでそう物騒な事を言った。

 白名井市は隣の市である。わりと近い所での不穏な事件に、クラス内はざわつく。ほとんどの生徒が今知ったようだ。


「せんせー、気を付けろってったって、どうすりゃいいんですか?」


 とある生徒のそんな質問に、先生は少しだけ真剣な顔になって答えた。


「とりあえず、男女では歩くな。リア充なんて爆発対象でしかない。むしろ爆ぜてしかるべき。率直に言おう。くたばり去れ」

「「「「「言っちゃったよ……」」」」」


 明らかにカップルに対する私怨が混ざっている独身教師の言葉に対する、クラス全員からの呆れたような呟き。

 そんな一言を最後に、ホームルームは終了となった。





     *     *     *





「爆発事件の犯人を突き止めるぞ!!」


 棚に並べられた歪んだ杖みたいなオブジェや壁に貼られた魔法陣が禍々しい雰囲気を放つ、魔法研究部の部室。その中でそう宣言した少女は、部長の星海せかい摩音まおだ。


「言うと思ったよ……」


 椅子に座ってため息まじりにそう呟く、副部長の勇弥いさみ唯羽ゆう。今日の魔法研究部はこの二人だけだった。


「なんだ、乗り気じゃないのか?」

「こういうのは警察とかの仕事じゃないか。高校生の僕らが関わっていい事じゃないよ」


 それに危ないしね、と付け足す元勇者の少年。

 異世界での名実ともにツートップだった唯羽と摩音は、そのチカラを今も持っている。だが、そんな力を持っていても、危険な真似はよして欲しいのだ。


「ふっふっふっ……」


 だが、摩音に諦めたような表情は無い。むしろ逆。余裕のある笑みを浮かべていた。


「この爆発事件に、『魔法』が関わっているとしたら、どうする?」


 元魔王の無駄に極悪そうな含み笑いで告げる摩音の言葉を聞き、唯羽は目を丸くする。


「魔法が関わっている……?それは本当なのかい?」

「ああ本当だとも。我らの前世の世界での魔法とはちょっと違うが、間違いなく魔力の反応を感じた」


 そう言ってちび魔王はほとんど無い胸を張る。

 魔法にかけては比喩でもなんでもなく『世界一』な彼女が言うのだから間違いないのだろう。


「まさかこの世界にも魔法が存在したなんてね。ちょっと驚きだよ」

「別に不思議な話じゃないと思うぞ」


 しみじみと言う唯羽に、そうあっさりと返す摩音。


「我らの元いた世界では我ら魔物の使う『魔法』と唯羽ら人間の使う『聖術』が存在したが、体内や大気中のエネルギーを『魔力』や『聖心力』に変換するという原理は同じだっただろう?」

「うん。その細かな系統やパターンは様々な違いがあったみたいだけどね」

「まあそうだが、重要なのは、魔法や聖術を行使するその過程にあの世界にしか存在しない物質やら法則やらを使っていない、順序さえ守ればこの世界でも行使できる、という所だ」


 つまり要約すると、あの世界で出来たのならこの世界で出来ないとは言い切れない、という事。


「爆発事件に関わっている魔法使いも、恐らく何らかの手段で魔法の法則をひも解いたのだろうな。魔導書を読んだとか、偶然見つけたとか、マスコット的キャラクターと契約したとかな」

「最後のはこの前見てたアニメの話じゃなかった?」

「人間に魔法を譲渡する高位生命体の存在だって可能性としては否定できんだろー」


 むすっとした風に摩音は言う。

 難しそうな話をしてしまったが要するに、魔法使いはいる、という事だ。


「世界は違えど魔法に関わって来た我らならば、この事件を早めに、そして円満に解決する事ができるかもしれない。こう言えばやる気が出るか?」

「……まあ、確かにね。被害は少ない方がいい。この世界の人の大半にとっては魔法なんて得体の知れないチカラだし、犯人がくだんの魔法使いなんだとしたら、僕たちで止めるのが最善だよね」


 上手く言いくるめられた気がしないでもないけど、と付け足して、唯羽は椅子から腰を上げる。

 そんな彼を見て満足そうにうなずく摩音は、最後にこう付け足した。


「ついでに部としての功績を上げて部費増額を狙おうではないか。まあ、あくまでついでだがな!ついで!」

「それが目的なんだね」

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