第52話 特殊な友達

 少女の後を歩く形で廃ビルから出た黄泉よみは、入口付近にバタバタと倒れている武装者たちを見て、思わず息を呑む。


「これも全部あなたが……?」

「まあな。こんだけの数を生かしたまま気絶させるのはなかなかホネだったが」


 何食わぬ顔でそう言いう少女は、ふとこちらに向かってくる3台の大型のワゴン車に手を振った。


 黄泉がいた廃ビルの荒れ具合から分かる通り、この辺りの建物は全体的にボロボロに朽ち果てており、ほとんど無人である。なので車が通る事自体珍しいのだが、引っ越してそう経ってない上にここは自宅から離れた場所なので、ここに車が来るという違和感を黄泉は感じなかった。


 やがてワゴン車は黄泉と少女の目の前に停まる。中から黒服を着た人達が出てきた時は思わず身構えたが、彼らは黄泉や白髪の少女をスルーして床に倒れている武装者たちの方へ走って行った。


「あの人達は……?」

「回収班の方たちです。安心してください、味方ですよ」


 黄泉の呟きに答えた声の主は、助手席の方から現れた小柄な少女だった。


(あ、この子も同じクラスの子だ)


 言わずもがな会話もした事ない相手だが、学校では白い髪の少女と大体一緒にいたので覚えていた。


「今朝のテログループの仲間探しを手伝っていてよかったですよ。こんな事に巻き込まれるとは災難でしたね。それとももしかして、テログループかれらに用があったのですか?」

「いやいや、無いよそんな。ぼーっと歩いてたらたまたま」


 と、そこまで言って、ようやく自分のやろうとしていた事を思い出した黄泉。辺りに視線を巡らせると、ちょうどビルから悪霊が出て来た所だった。だが何故かその霊からは悪霊の気配は消えており、良い霊に変わっていた。


(テロリストと出会って怖さのあまり悪さをするのが嫌になったとか、そういう感じなのかな……?)


 原因はよく分からないが、一応今回の目的は果たせた事になる。黄泉はほっと息をついた。


「どうかしたのですか?」


 そんな黄泉を見て不思議そうに首をかしげる小柄な少女。

 それもそうだろう。黄泉は今、常人から見れば何もない虚空を見つめて固まっているのだから。


「ううん、何でもない何でもない。それより、ホントありがとね。えっと……」

美菜央みなお彩芽あやめですよ。こっちの白い方はエンデさんです」

「よろしくな」


 名前を呼ぼうとして聞いてすらいない事を思い出した黄泉。そんな彼女を見て察したのか、2人の少女はそう名乗る。


「私は三瀬川みつせがわ黄泉よみ。よろしくね、2人とも」


 命の恩人たちにこんな軽い調子で話していいのかと思う黄泉だったが、それを言うと、2人はいつも通りで構わないと言ってくれた。


 3人がそんな自己紹介をしているうちに、彩芽が『回収班』と呼んでいた黒い人達はあっという間に気絶した武装者たちをワゴン車の中に運び終えていた。

 そして彩芽がワゴン車の運転手と何か話し始めた時、ふと黄泉はエンデの白髪を見て、尋ねた。


「綺麗な白い髪だけど、エンデは外国人なの?」

「惜しいな。50点だ」

「それ惜しいって言うのかな。半分落としてるけど」


 惜しいのなら70点は欲しかった黄泉。対して、そこら辺は曖昧なエンデは特に思う事もなく続ける。


「オレが天界から来た死神って言ったら信じるか?」

「えっ、まさかの人外」


 一瞬だけ驚く黄泉だが、確かに目の前の少女は普通の生きてる人間とは何かが違う。霊能力者の勘がそう言っていた。

 それに、エンデがもし本当に死神なんて存在なのなら、先ほど武装者たち相手に圧勝した実力も合点がいく。


「死神ってほんとにいたんだねー。オカルトの塊みたいな私でも初めて知ったよ」

「意外とあっさり信じるんだな」

「まあ、私もこう見えて霊能力者だから。非現実的だからって笑うようなつまらない事はしないよ」

「ほお、霊能力ねぇ……」


 エンデはその紅い瞳で、興味深そうに黄泉の姿を眺めた。


「確かにオマエの魂、何か普通と違うな。なんつーか、臨死体験をしたニンゲンの魂に似てるような……」

「あ、それたぶん三途の川にしょっちゅう行っちゃうからかも。これも霊能力なのか、よく夢で行けるんだよねー」

「大丈夫なのかオイ……」


 つい寝過ぎちゃった、とでもいうように軽い調子で笑う黄泉。

 いつかうっかり川を渡っちゃわないだろうか。死をつかさどる神として、エンデは彼女が少々心配だった。


「あ、もしかしてさっきいた悪霊が良い霊になったのもエンデのおかげ?」

「悪霊?そんなのいたのか」

「あれ、違うんだ」


 実際は、生死を問わず魂を刈り取る死神のオーラを感じ取った悪霊が、刈られてはたまらんと自分から悪の道を降りたのだが、死神と霊能力少女はそんな事には気づかなかった。


「お待たせしましたです。残党狩りも今終わったみたいで、後は『上』の方で処理してくれるそうです」


 話が終わった彩芽は、武装者たちを乗せた3台の大型ワゴン車を見送り、そう言った。


「じゃ、テロ事件は一件落着でいいのか?」

「とりあえずはそうですね。なのでエンデさんは明日の休み明けテストの心配をしてくださいです」

「ねえねえ、せっかくだしもし良かったらうちで勉強会しない?助けてもらったお礼もかねてケーキでも買うよ」


 彩芽が呼んだという迎えの車が来るまでの間、廃ビル前で和気あいあいと雑談に花を咲かせる3人。

 殺し屋、死神、霊能力者と不吉三拍子そろったような彼女たちだが、その姿はどこにでもいる女子高生そのものだった。

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