第51話 霊能力者VSテロリストVS???
武装者たちの顔面に塩をまき散らし、全力で逃走する
霊能力も生きてる人間にはほとんど無力である。だからこんな事もあろうかと、彼女は対人手段も考えていたのだ。
「これが漫画で学んだ霊能力者の対人攻撃『食塩散らし』!上手く決まった……!」
塩の入った小袋を目に向かって投げつける、黄泉の必殺技である。
ただし効果は薄かったようだ。武装者の一人は無線で連絡しながらこちらを追いかけてくる。
「こちらC班。標的校の生徒一名を発見。応援を要請する!」
「ひゃああ!増えないでよー!!」
黄泉は今記録を測ったら校内一を狙えるのではないかというようなスピードで階段を駆け下りる。
目指すは一階の出口。外に出てしまえば助けを呼んだり裏道を通って逃げたりできる。
「よし、出口……!」
一階まで下りた黄泉はそのまま出入口に向かって走る。だが、
「うわっ、やばいやばい!」
傾いたドアをこじ開けようとしたのとほぼ同時に、この廃ビルの前に真っ黒の大きな車両が2台ほど停まったのだ。そして後部座席からは、同じような武装をした人がたくさん出て来た。
「仲間くるの早すぎでしょ!」
黄泉はすでに疲れていた体を強引に動かし、近くの部屋に逃げ込んだ。
上の階に上がって行けば、先程の5人と鉢合わせてしまう。かと言ってそのまま外に出ると、今しがた到着したお仲間と衝突してしまう。すぐに見つかってしまうかも知れないが、1階の部屋に隠れるしかなかったのだ。
「あーもうどうしてこんな事に……って私の自業自得か。ちゃんと確認すればよかったのになぁ……」
しかし、今頃悔やんでも後の祭り。どうにかして逃げ延びなければと気持ちを引き締める。
「今ごろ降参してもただじゃ済まないよね。人質にするとかどうとか言ってたし……」
ガラスがすでに割られている窓から外を確認しながら、黄泉はそう呟く。幸い外は完全に囲まれてはいなかったが、窓にはガラス片が付いたままなので、ここから出れば全身血まみれで逃げる事になる。
「私の霊能力じゃ1対1でも武装者には勝てない。だから見つからずに逃げるのが最低条件だけど……」
一度閉めたドアの隙間から1階の様子を覗くと、わらわらと武装者たちが入って来る所だった。そしてその内2人が、黄泉のいる部屋へと歩いて来た。
気づかれてはいないだろうが、元はエントランスっぽい1階は他の階と違って部屋が少ない。下からしらみつぶしに探す作戦なのだろう。
「……これ詰んだかも」
ドアから離れ、せめてもの抵抗として積まれていた段ボールの山の後ろに隠れる。
(これで私も幽霊の仲間入りかぁ。三途の川で平泳ぎの練習がんばろ)
平泳ぎの世界記録って何秒だったかな、と現実逃避を始めた諦めモードの黄泉。
ほどなくして、武装者がドアを蹴破る大きな音が聞こえる。
と思っていたのだが。
(遅い……この部屋には来ないの?)
段ボールの山から恐る恐る顔を出してみると、部屋の中には誰もいない。ドアも動いた様子はない。
(ちょっと見てみよ)
再びドアの前まで忍び寄り、ちょこっとだけ開けて外を確認。
そこで起こっていた出来事は、黄泉にとって意味不明な物だった。
「なにあれ……」
広い1階エントランスで、たった一人の少女が武装者たちを蹴散らしていた。腰まで伸びた白い髪に、血のように赤い瞳。そしてその右手には、まるで死神が持っているような漆黒の大鎌が握られている。
どこか見覚えがあると思ったら、黄泉が転入した二年二組のクラスメイトだった。一度も話したことはないが、綺麗な白い髪が印象的で記憶に残っていたのだ。
「オマエの言った通り、ここはテロリストどもがわんさといやがるぜ、アヤメ!」
そんな事を叫びながら、大鎌で武装者たちのアサルトライフルを切り裂き、刃の腹で頭を殴って気絶させていく。よく見ると彼女の右耳辺りに、小さな通信機のような物がついていた。先ほどの声はそこに向けてのものだったのか。
そんな少女は、およそ人間には出来ないような挙動で壁や天井を蹴り、部屋中を飛び跳ね、一人ずつ意識を奪っていく。その途中で銃弾の何発かは確実に命中していたはずだが、彼女からは血の一滴も流れていなかった。
「これで最後っと」
大鎌を逆さにして、長い柄で頭をぶん殴る少女。最後の武装者はその場に崩れ落ちた。
「す、すごい……」
ドアの隙間からその光景を呆然と眺めていた黄泉だが、ふとその少女と目が合い、ビクッと肩を震わせた。
「大丈夫だぜ、オレは敵じゃねえよ」
大鎌を担いだまま、左手をひらひらとこちらに振る少女。
黄泉はその笑顔を見て、恐る恐ると言ったふうに部屋から出て、辺りを見回す。
「うわぁ……ホントに全員倒しちゃったんだ……」
「意外と多かったな。オレもびっくりだ」
そう言うと少女は大鎌から手を放して、ポケットからスマホを取り出した。右手から離れた大鎌が霧のように消えていった事に黄泉は驚いていたが、少女は気にせず誰かと電話していた。
「……ああ、こっちは全員片付けたぜ。え?通信機繋がってるからわざわざ電話しなくてもいいって……あ、ホントだ」
どこか抜けているそんな少女は、電話しながら出口へと歩いていく。黄泉はその背中を追うべきか迷っていたが、ふと少女がこちらに振り向き、ちょいちょいと手招いて来た。
助けてもらったお礼も言えてないし、何より名前も聞いてない。
せっかくだし連絡先でも聞けないかな、と考えながら、黄泉は少女のもとへ駆け出した。
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