波乱の二学期 編
第49話 テロから始まる二学期生活
二学期の始業式。
大きな体育館の中に全校生徒が集まっており、今は校長先生が毎度の長い話を始めたところだ。
校長先生の話を聞きながら、
「校長先生、一学期より髪濃くなってない?カツラかな」
もっとも、人美が話すその内容の大半はしょうもない事だが。
「マキはどう思う?」
「気のせいじゃないかしら。私には増量したようには見えないわよ」
「あれ、そう?まあロボのマキがそう言うんならそうなんだろうけど……」
でも増えてるよなぁー、と失礼な事を呟く人美。しかしすぐにどっちでもよくなったのか、話の内容は全然違う方向にずれる。
「前から思ってたんだけどさ。校長先生の話、長くない?」
「今更ね」
先生にも先生の事情があるのだろうが、人美としては早く終わって欲しかった。夏の体育館に全校生徒すし詰め状態は暑苦しくてかなわない。
「何かの拍子で大事件とか起きて終わらないかなー」
「物騒なこと言わないの」
呆れるように真季那がそう言った直後の事だった。
大きな爆発音と共に、体育館のドアが吹き飛んだ。
「うわぁ何!?」
祭りの太鼓の音よりもお腹に響く衝撃に、生徒は皆動揺し、校長先生も話を止めた。
寝ぼけまなこでぼんやりと話を聞いていた者も人美たちのように周りとおしゃべりしていた者も、皆が吹き飛んだ入口に注目する。
「人美があんなこと言うからドアが爆発したじゃない」
「私のせいなの!?」
真季那にそんな事を言われながら、人美は風通しの良くなった入口を見る。
そこから体育館に入場してきたのは、全身真っ黒の装備でガチガチに身を固めた5人の大人達だった。
「全員その場から動くな!!」
先頭の男が、その手に持った真っ黒なアサルトライフルを掲げながらそう叫ぶ。
いきなり過ぎる展開に呆然とその姿を眺める生徒たち。だがすぐに状況を理解すると、ざわざわと声が広がり出した。
「何あれ、テロリスト?」「アサシンだよアサシン」「違うよ。特殊訓練を受けたゲリラでしょ」「何の用なのかな」「トイレ借りに来たんじゃね?」「校舎の使えよ」「体育館のトイレって臭いよね」「校長の話無くなったからナイス」「確かに」「これ映画の撮影じゃね?」「どうでもいいけど眠い」
目の前に現れた武装者5人を見ても、悲鳴一つ上がらない。想像と違った光景にやや拍子抜けしそうになった先頭の男は、気を取り直して声を張り上げる。
「我々は、この中に超常的なすごい力を行使する者達がいるという情報を手に入れた!無駄な抵抗をしなければ危害は加えない!心当たりのあるヤツは大人しく出てこい!」
男のその声が響くとほぼ同時に、真季那は一年一組の列から外れて歩き出した。人美も慌ててあとを追う。
前に出た真季那を見て、男達は銃を構えながら彼女の前に立つ。
「お前が例のすごい力を持つ者か」
「例の、と言われても分からないのだけれど」
「我々は近隣住民の人から、この学校のクラスマッチなる行事は『なんかすごかった』という情報を手に入れたのだ。我々はその力を利用するためにここへやってきた」
「説明ご苦労様」
向けられた銃口にも臆さず、普段通りの口調で真季那は情報を聞き出す。というか、男が勝手にしゃべってくれただけだ。
「まああれだけ派手にやってれば、そりゃ噂にもなるよねぇ」
後ろでそれを聞いていた人美は、一学期最後に行われた人知を超えた戦いを思い出して苦笑い。
この男の言う『すごい力を持つ者』は、正直言って該当者が多すぎる。人美の周りには普通じゃない人がいっぱいいるのだ。
そして人美的にはその筆頭とも言える人型ロボット、真季那が男に近づいた。
「悪いけど私たち、始業式が終わったら明日の休み明けテストに向けて勉強しないといけないのよ。だから帰ってくれないかしら」
「なんだと!すごい力を使った我々のすごい悪事はテスト以下だと言うのか!!」
「以下よ」
顔色一つ変えずにそう告げた真季那は、男の持つアサルトライフルを右手で掴み、容赦無くへし折った。
「ぎゃあああああ!俺の相棒があああああ!!」
ベコォ!!と気持ちい音と共に、くの字に折れ曲がった元アサルトライフル。それを見て、男は泣きながら絶叫した。
「マキ、容赦ないね」
「情けをかける必要を感じないわ」
人美のつぶやきにそう返しながら、真季那は2人目の武装者に近づく。
「ひいっ!俺の愛銃も折っちまう気か!」
「折っちまうわよ」
「やめろおおおおおお!!」
もはやどちらが被害者か分からなくなるような恐怖の叫びと共に銃声が響き、弾丸がばらまかれた。
しかしそれは真季那に当たる事なく、まるでビデオを一時停止したかのようにピタリと空中で停止した。
「真季那ちゃん大丈夫!?」
その現象の正体は、
30を超える弾丸を全て止めた超能力少女は、真季那に近寄って心配そうに声をかけた。
「助かったわ才輝乃。あのまま受けてたら制服が汚れていた所だったわ」
「汚れ落とすの大変だもんね」
家の家事を一通りこなしている才輝乃は真季那の言葉にうんうんと頷く。才輝乃が意識から外すと、勢いを失った銃弾は全て床に落ちる。
その光景を見て、男は震えあがった。
「な、なんだコイツら……化け物か……」
「何を今更。その情報を元にやって来たのはお前ら自身だろうが」
「……!?」
急に後ろから声をかけられた男は、弾かれたように振り向く。
そこで既に3人の武装者を倒していたのは、こっちこそ本物の
「残りはお前だけだぜ」
「ひいいい!!!」
慌てて銃を向けるが、既に遅かった。
その引き金に指が添えられる頃には、超能力によって銃身は真っ二つに裂け、罪人を締め上げる天使の鎖が体をグルグル巻きにした所だった。
「よし、いっちょ上がり」
仕上げに頭をひっぱたいて意識を奪った翔は、5人の武装者を一つにまとめる。
「コレどうするよ」
「私が処理しますですよ」
あっさりと幕を閉じた戦闘劇に物足りなさそうにする生徒たちをかき分けて出て来た小柄な女子生徒は、現役バリバリの殺し屋少女、
「仕事の時に使う回収班を手配します。後は適当に尋問させて彼らテログループを根っこから殲滅してもらいますです。武装の入手ルート捜索や情報操作も専門の方々に任せるのか一番ですよ」
「すごい。仕事の出来る女だ」
スマホで指示を送りながらすらすらと言葉を並べる友人に、人美は尊敬のまなざしを向けた。仕事のできる女はカッコイイのだ。
そんなこんなであっさりと終わってしまった非日常体験。映画感覚でその戦いを見ていた生徒達は、先生らの指示で今日はすぐに下校になった。
「何なの、この学校……」
ただ一人。
今日からこの高校に転入してきた霊能力者の少女、
「私、入る高校間違えたっけ……?」
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