第35話 勇者をたずねて三千世界
二年生にいるという『勇者』の姿を見た事がない翔は、実際に会ったという人美たちに聞いてみる事にした。顔も分からない相手では探しようがないからだ。
「あー、魔法研究部の先輩か。確かに会った事はあるね」
自動販売機の前で、どれを飲むか悩むように指を動かしながら人美は言う。
「でも残念ながら連絡先までは知らないかな。ショーきち、先輩達に用事?」
「用事っつーか、まあ、そんな感じだな」
詳しくは言わないが、人探しの手伝いなので用事といえば用事である。
そんな翔を見て、人美はブドウ味の炭酸飲料のボタンを押しながら、
「それならイノリんに聞くといいかもよ。同じ部活に入ってるみたいだし」
「お、そうなのか。じゃあそうするぜ」
という訳で、暑い中公園でゴミ拾いをしていた
人美の情報通り同じ部活に所属しているという一愛は先輩たちの連絡先も知っているようで、電話で公園に来て欲しいという旨を伝えた。
そしてしばらくしないうちに、勇者こと
「僕に用事があるみたいだけど、何かな?」
「勇者サマの仲間が異世界からやって来てお前を探してる。簡単に言うとこんな感じだ」
翔は単刀直入にばっさりと現状を伝えた。すると唯羽は驚いた様子で目を丸くした。
「僕の仲間……?ザウマスとイディーがこの世界に?」
「二つ目のは知らないが、ザウマスって名前の男とは会ったぜ」
「そうか……知らせてくれてありがとう。僕の方からも探してみるよ」
「あちょい待て、集合場所決めてんだよ」
そんな翔と唯羽のやりとりを聞いて、一件落着かな、と一愛はゴミ拾いを再開した。
その時、公園の入り口からとある男性の声が響いた。
「見つけましたぞ、勇者様!!」
そこにいた声の主は、軽装鎧を身に着けた中肉中背の若い男性。20代かそこらだろう。そして後ろには、黒いマントに身を包んだ魔女のコスプレイヤーみたいな高校生くらいの少女もいた。
「ザウマス!イディー!」
駆け寄る2人を見て、唯羽は驚いたように、しかし嬉しそうに彼らの名前を呼ぶ。
あのコスプレイヤーの人達は何なのだろうか、と不思議そうに見ていた一愛も、元異世界の勇者である唯羽の知り合いだと知ってその2人の奇抜な格好も納得した。そして彼らの喋る言葉が一切分からない事から異世界時代からの仲である事も想像出来る。
「ようやく……ようやくお会いする事が出来ました……!」
「勇者、久しぶり」
ザウマスの方は感極まって目尻に涙を浮かべながら、イディーと呼ばれた少女は小さく微笑んで、勇者との再会を喜んだ。
「僕は一度死んだんだけど、分かるのかい?」
「もちろんですとも!そのお姿、その御力。我々が間違えるはずがございません!」
「その通り。私たちの知ってる勇者の面影もある」
かつて世界平和を取り戻すために、唯羽と共に世界を渡り歩いた仲間たち。そんな2人が、頼もしい仲間であり敬愛する勇者の姿を、一度生まれ変わったくらいで見失うはずが無かった。
「翔さんと言いましたか。この度はご協力ありがとうございました。おかげで勇者様と無事再開する事ができました」
「いや、無事会えて良かったけどよ。お前さっき、力が辿れないとか言ってなかったか?その割には集合場所でもないこの公園に来れたようだが……」
丁寧に礼を述べるザウマスに、翔は不思議に思い、そう尋ねた。
先ほどザウマスと話した時は、世界を渡った際に自分の力が無くなった、とザウマスは言っていたのだ。だから勇者の大きな力も辿れないのだと。
「ああ、その事ですか。その問題は彼女が解決してくれましたよ」
そう言って隣の少女、イディーを示す。
彼女は翔の視線に気づくと、顔はほとんど真顔のまま、自慢げにピースサインを作った。
「先ほど翔さんと出会った際は別方向を探していた彼女が、この世界の甘味には我々の力を回復させる作用があると判明しまして」
「これ。おばあさんに貰った」
イディーがポケットから取り出したのは、手のひらサイズの飴玉だった。
「ただのアメ……だよな」
それはどう見ても普通の飴玉。だが異世界からきた彼らが食べると力が回復するらしい。よく分からない仕組みである。
天使としてこの世界の事はそれなりに知っていたつもりだったが、まだまだ世界の謎は絶えないようだ。
「天界提出のレポートが期せずして埋まりそうだぜ。やっぱ人助けはするもんだな」
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