第25話 休憩中の出来事

 一回戦、そして二回戦も順調に勝ち進んだ二年二組チームは、最後の決勝に向けて作戦の打ち合わせや体ほぐしの運動に念を入れていた。

 そして委員長との作戦打ち合わせが終わった摩音まおは、近くのベンチによっこらせと腰を下ろした。


「お疲れ様、キャプテン」


 そんな摩音にそう声をかけたのは、水の入ったペットボトルを差し出す唯羽ゆうだった。


「さすが元異世界の魔王。部下の作戦指揮もお手の物だね」

「そう言うお前こそ、試合中に皆を鼓舞するかけ声はなかなかだったぞ、勇者よ?」


 ペットボトルを受け取りながら、隣に座る唯羽へそう言った。


「あの『ミナミーノ雪原の合戦』で、極寒の中での戦いにも関わらず勇者軍が最後まで折れなかった理由がようやくわかったわ」

「ハハ、あの時は僕も無我夢中だったんだよ」


 他クラスのしている試合を眺めながら、昔話に花を咲かせる元勇者と元魔王。異世界での戦争の話などその内容は物騒だったが、傍から見ると普通の友人同士である。まさか来世でこんなに平和に生きているなど、異世界での自分じゃ想像も出来なかっただろう。


「む、唯羽、あれを見てみろ」


 だが不意に、摩音の視線がほんの少し強張った。

 摩音が示す先は、今まさに準決勝を行っている一年二組チームと三年二組チーム。どちらか勝った方が、摩音達のチームと決勝戦をすることになる。


 摩音が見ているのは、その一年二組チームの2人の女子生徒だった。

 黒髪ショートの背が小さい女子生徒と、長い白髪と真っ赤な瞳の女子生徒。2人とも、常人離れした動きで先輩達を翻弄していた。


「小さいのはギリギリだが……あの白い奴。あれはもう人間じゃないな」


 背の小さい摩音が背の小さい一年を『小さいの』呼ばわりするのが少し面白かったが、本人に言うと怒りそうなので黙っておく唯羽。


「でも確かに言われてみれば……。彼女の動きは物理法則を完全に無視してるね」


 そう言われている白髪の女子生徒は今まさに、空間転移ともいえるスピードで相手のディフェンスをかいくぐっている。普通の人間にできる事ではない。


「それに白い髪と紅い瞳というあの容姿。もしかすると我や唯羽と同じ元異世界人なのではないか?」

「うん。その可能性もありそうだ」


 摩音と唯羽はそれぞれ、赤と青というたいへん目立つ髪色をしている。これは前世での記憶や能力が引き継がれているのと関係があるのか、生まれつきこうなのだ。

 なので摩音たちは、どんな白よりも白い髪を持つ彼女もそういった物があるのではとふんでいた。


 そして、そばにいるもう1人の黒髪の少女。彼女も要注意だった。


「あいつは人間……だと思うが、動きがおかしいぞあれ」

「あれは僕らみたいな超常的なチカラじゃなく、単純に経験と技術が詰まってる感じだね」


 唯羽のその言葉に、摩音も深々とうなずいた。


 黒髪の少女は、ボールを足元で維持したまま、誰にも触れられる事なく突き進んでいる。それは摩音のように身体強化魔法をかけてブーストしている感じではなく、言うなれば『人間の動き方』というものを完全に熟知しているような体さばきだった。


 サッカー経験者か、それとも人間相手に戦うがあるのか。

 いずれにせよ、強敵なのは間違いなかった。


「まあ何であれ、彼女達の実力は本物だ。間違いなく彼女らのチームが僕らと戦う事になるだろうね」

「うむ。決勝戦はなかなか面白くなりそうだ」


 やはり戦いは強敵相手の方が俄然燃えるな、と力強い笑みを浮かべる摩音。

 そしてちょうど、目の前で行われていた試合に決着がついた。1対5で一年二組チームの勝利だった。


「よし、唯羽。優勝をいただきにいくぞ」

「ああ。最後まで頑張ろう」


 ゆっくりとベンチから腰を上げた2人は、チームメイトと合流していった。

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