第24話 これが我らの超次元サッカーだ!

 じりじりと太陽が輝く夏のグラウンドは暑い。サッカー班のクラスマッチはそんな中での開催となった。


「ふむ……あいつらはいないのか」


 相手である一年一組チームを見てそう呟くのは二年の元魔王、星海せかい摩音まおだ。前に魔法研究部に誘った一年生達を探したが、残念ながらサッカー班にはいないようだ。


「やつらがいないのなら、我ら二年二組チームの優勝は決まったようなものだな」

「そうは言っても油断は禁物だよ、摩音」

「分かっておるわ」


 と言いつつも勝利を確信してやまない摩音に苦笑するのは、同じく二年の元勇者、勇弥いさみ唯羽ゆう。2人はサッカー班として、クラスマッチに参加していた。


「それにしても全学年ごちゃ混ぜで試合とは、一年に厳しいルールだな」

「まあ1クラス1チームな訳だし、学年ごとだとすぐ終わっちゃうだろうからね」


 摩音の呟きにそう返しながら、唯羽は相手チームの方を見た。

 相手チームの選手は皆、作戦を話し合ったり準備運動をしたりと気合いが入っていた。相手が二年だからと言って諦めたりはしていなかった。


「相手もやる気のようだね」

「それでこそ我らの相手というものだ……。では、始めるとするか」


 摩音はチームメンバーに声をかけ、ぞろぞろと位置に着いた。身体強化魔法を使い誰よりも速く動ける摩音は、最も得点能力が求められるセンターフォワードへ。魔法は使えないものの並外れた身体能力を持つ元勇者の唯羽は、守りも完璧にするべくゴールキーパーを担当する。


 他にも運動神経のいい人達をまんべんなく配置し、司令塔であるボランチというポジションには、二年二組の頭脳ブレインと呼ばれている学級委員長も参戦している。本気で勝ちに来ているメンバーだった。


「今まではあと一歩のところで負けてばかりだったが、今度こそ優勝をいただくぞ!」

「「「「「おおおおお!!」」」」」


 摩音の掛け声に続く、10人のおたけび。ベンチにいる控えメンバーの人も、皆一様に声を上げていた。

 クラス替えのないこの高校で、1年以上共に過ごした仲間たちとの息はピッタリ。まさに一致団結の光景に、思わず尻込みしてしまう相手チーム。


 斯くして、サッカー班のクラスマッチが始まった。



「先手必勝っ!行くぞ!」


 開始早々、ボールを巧みに操って突き進む摩音。平均よりも低い身長も相まって、そのすばしっこさは凄まじかった。


「行かせるか!」

「ここは通さないよ!」


 相手は摩音こそ最大の脅威だと判断し、わらわらと彼女の前に立ちふさがる。だが摩音の動きは、文字通り人間のそれを超えていた。


「甘いな!!」


 摩音はボールを足で挟んだまま5メートルは跳躍し、空中で回転しながら人の壁を越えたのだ。


「まだまだ遅いな人間よ!」


 そう笑いながら次々とディフェンスをかいくぐる摩音は、ゴールへと一直線。やがてしかるべき位置にたどり着くと、立ち止まる事無く全力でシュートを放った。


「食らえ!魔王の一撃!!」


 摩音の蹴りから放たれたシュートは、まるで砲弾のようだった。ボールから爆発したかのような轟音が響き、ゴールの端を狙って真っ直ぐに直進する。


「……!」


 相手キーパーが反応する前に、ボールはネットに突き刺さる。一瞬遅れてボールを追うようにやって来た烈風が、キーパーの顔を撫でた。


「よしっ!さすが我だな!」


 青ざめる相手チームとは正反対に、自身のかっちょいいシュートにガッツポーズをする摩音。チームメイトも苦笑いである。



 だが、相手もただやられっぱなしではなかった。

 摩音が2点目を決めた辺りから、相手チームはメンバーが3人ほど交代された。新たに投入された戦力は、サッカー部次期エースの3人と期待されている人達だった。


「摩音ちゃん、彼らは手ごわいよ」

「フッ、望むところだ」


 委員長の言葉に、頼もしい笑みで返す摩音。


「魔王の立つその向こう側。渡れるものなら、渡ってみるがいい!」


 自信満々に言い放つ摩音を避けるように、ボールを蹴る3人が走る。

 摩音はチームメイトと連携し、パスをさせる前にボールを奪おうと迫るが、


「っ!」


 経験の差とでも言おうか。力では突出している摩音だったが、次期エースとうたわれる者たちは経験の積まれた俊敏な動きでその防御を突破した。


「まずい……!唯羽!」


 キーパーを残して皆前に出過ぎていたので、ゴールの前にいるのは唯羽だけである。相手は、一見すると線の細い体の唯羽など大した事ないと判断したのか、勝ちを確信したような笑みを浮かべた。

 しかし唯羽も、その笑みには笑みで返した。


「大丈夫、止めてみせるよ」


 その笑みは、その言葉は、相手などではなく摩音たちチームメイトに向けられたものだった。

 唯羽は一度ゆっくり息を吐くと、ボールへ向けて右手を突き出した。


 勇者。

 それは魔を断ち切る為に剣を振るう者であると同時に、それら魔のモノから身を守るすべを持たない民を護る者。


 異世界での前世。かつて千の軍勢からたった一人で国を護り抜いた救世の英雄。一歩も引かずに剣を振るい続けた勇者に、たった一つのボールからゴールネットを護るなど、朝飯前もいいところだった。


 人間にしてはなかなか速いシュートだったが、勇者には片手で事足りる。

 右手で難なくボールを掴む唯羽を見て、相手もようやく、彼こそが最も危険な人物だと認識できた。

 しかしその認識は、試合終了を告げる笛の音と重なるものだった。


「まずは一回戦、我らの勝ちだ!!」


 摩音の声に続き、二年二組チームの勝鬨かちどきがグラウンドに響き渡った。

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