第23話 決着、そして―――

 体育館内に無数の閃光が弾ける。しょうの生み出したシャトルに偽装したエネルギーの塊と、それらを撃ち落とさんとする真季那まきなのプラズマガンがぶつかり合う光だ。


「見つけたわ……!」


 真季那は無数の偽シャトルの中から翔が打ち上げた本物を見つけ、力いっぱい打ち返す。

 駆動出力を最大まで引き上げた今の真季那の腕力なら、ただの投球でコンクリート壁を軽く粉砕できる。そんな力によって打ち出されたシャトルだが、天使のエネルギーが込められた翔のラケットはそれを弾き返した。


「ラケットの破壊を狙ってるなら無駄だぜ!俺の持った物には全て天使の力が働く。つまり体育館にある予備だろうとこのラケットの代わりが利くからな!」

「あなたのラケット自体に何のカラクリも無いのは解析したわ。強いて言えばむしろ、破壊を狙っているのはラケットではなくあなたの肩かしらね……!」

「スポーツマンシップクソくらえってか!面白れぇじゃねえか、それこそ全力の戦いってモンだよなァ!!」


 間に入って行ったら間違いなく病院直行になりかねないほどの、まるで弾丸が飛び交っているかようなラリーを繰り広げながらも、言葉を交わす両者。お互いの顔に余裕というものはとっくに無くなっていたが、それでもその勢いは止まらない。


 試合時間はとうに20分を越えており、見ているだけの人美ひとみたちですらその熱気に疲れはじめていた。

 だが、天使と機械に疲労などないのだろう。性能的な面ではあるのかもしれないが、少なくとも精神的な面では感じていないようだった。


「ハハッ!天界から出てこんな全力を振るえるとは思いもしなかったぜ!」

「私の方こそ、ここまで全力で動き続けたのは初めてよ」


 笑みを浮かべながら、なおも止まらない動き。この勝負は永遠に終わらないのでは、なんて人美が思っていたその時。


「そこまでよ!」

「「!?」」


 不意に体育教師の声と共にその笛が鳴り、2人の動きは強制的に止まった。


「何故止める!?俺はまだいけるぜ!」

「私もです、先生」


 2人分の抗議の声を受けて、体育教師の女性は言いにくそうな顔で続ける。


「私もこの試合を中断させるのはすごく不本意なんだけどね……悪いけど時間なの」


 先生曰く、今回のように試合が延々と続きそうな時に備えてか、クラスマッチには時間が決められているらい。そしてちょうど今がその時なのだという。


「点数も13対13で同点。記録上は2人とも優勝、という事にさせてもらうわね」

「……そう言う事ならしゃーねぇか」


 輝く翼を仕舞い込み、しぶしぶながら承諾する翔。真季那も決まりなら仕方ない、と分かってくれたようだ。


「まあこんな結果になちゃって申し訳ない気持ちもあるけど……2人とも、素晴らしい試合でしたよ」


 今までたくさんの試合を見て来た先生だが、戦いの規模を抜きにしてもこんな真剣勝負は久しぶりだった、と手放しで褒めてくれた。


「ま、大事なのは結果よりも中身だ。俺は楽しかったぜ、真季那よ」

「こちらこそ、機会があればまた手合わせ願いたいものだわ」

「機械だけにってか?」

「寒いわよ」


 翔のくだらないダジャレに、参加者中から起こる笑い。実力をぶつけ合う相手も、試合が終われば皆仲間である。これこそスポーツを通じて生徒に知ってほしかった物なのだ、と静かに感動する体育教師。


 戦車が通った後のようなボコボコの惨状となってしまった体育館の中、そうしてバドミントン班のクラスマッチは幕を閉じた。



 ――――――かに思えた。


「おや、遅れてしまいましたか。どうやら決勝も終わってしまったようですね」


 不意に入口付近から聞こえた声が、静けさが戻った体育館に響いた。声の主は、身長の高い男子生徒だった。


「あ?誰だあいつ」

「アイツは、この学校のバドミントン部の部長だ……」


 翔の問いに、近くにいたゴッドスマッシュ佐藤が答えた。


「フッ、その通り。私がバドミントン部の部長だ」


 前髪をフサァとかきわける彼は、そう言って翔と真季那に歩み寄る。ラケットを持っているのを見るに、彼も参加予定だったのだろう。


「わりぃが試合はもうおしまいだぜ。俺たちの決勝が今終わった所なんでな」

「キミ達が、決勝を?2人共まだ一年でしょう?ご冗談でしょう」


 部長と呼ばれた男子生徒はそう鼻で笑うように言い捨てる。


「ちょっと、いきなり来て何えらそうに―――」


 彼の態度に憤りを覚えた人美は迫ろうとしたが、真季那が片手を広げて制した。見ると彼女の顔には、視界に捉えたものを皆凍らせるのではないかと思うほどの、まさに絶対零度の笑みが浮かんでいた。そして隣にいる翔も、その口の端に刃物で割いたような薄い笑みを浮かべて、両手をバキボキと鳴らしている。


「なあ真季那。たしか運動の後には、適度な運動をこなすのが体にイイんだよな」

「ええそうね。関節を傷めないように、運動後のストレッチはむしろ推奨されてるわね」

「そっかそっか、そおだよなぁ」


 そう言って、笑みと表現するにはいささか恐ろしすぎる笑みを浮かべる2人。

 その視線を受けて、挑発的な態度を取っていた部長は後ずさりをする。周りの生徒は皆、自業自得だという風に肩をすくめるばかりだった。


「あのーキミ達?何を思っているのかは知らないが、バドミントンは普通1対1でやるものだよ……?」

「あら、バドミントン部の部長さんなのでしょう?ならを相手取るくらい、問題ないわよね?」


 特殊合金製ラケットを握りしめ、そう迫る真季那。その後ろでは、翔がシャトルの入ったカゴを床にばらまきながら、その体にはあふれんばかりのオーラを巡らせていた。


「さあ、ストレッチの時間だゴラァ!!」


 翔の叫び声と共に、不可視のエネルギーによって浮き上がったシャトルの散弾が、一斉に発射された。


 そうして体育館に響いたのは、冷たい笑いと気合いのこもった叫びと、断末魔に似た悲鳴。

 過去最大の試合を見せたバドミントン班のクラスマッチは、最後までもがどんちゃん騒ぎの大乱闘だった。

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